情熱の扱い方〜前編〜
□最後に好きになった人
1ページ/13ページ
澤村君か。
衝撃的だった。
お見合いの件で、結局、両親からお小言を頂戴したが、内容はほとんど覚えていない。
いつもなら月曜日に起きられなくなるくらい、ダメージを受ける至近距離からの攻撃。
それなのに、今回はぼんやり謝って、いつの間にか寝ていて、日曜日も終わって、気が付けば会社にいた。
社用メールを見ても、文字が頭に入っていかなかった。
模様にしか見えない。
普通なら開いた瞬間、悪態をついているところなのかも。
澤村君。
大学4年の頃は茶髪でちょっと長めだったから、時が経ったのを感じた。
澤村君も驚いた様子だった。
今日もまた、ひとつひとつ思い出してみる。
・・・・・・相変わらずミステリアスな雰囲気の人で、そんな彼に似つかわしくないような、はにかんだ笑顔で『久しぶり』と言ってきた。
「あ、そうだね。私が卒業して以来かな。」
なんとか、言葉になった。
かれこれ10年以上も会っていないのに、私はこの人のことをずっと好きだった。
社会人になって、時折言い寄られることがあったかもしれないけど、どうしてもこの人と比べてしまっていた。
きっと、まだ好きなんだと思う。
それにしても本当にびっくりしたな。
急に会ってもびっくりしただろうけど、その日にした願い事の一つに、澤村君のことを書いていたから余計に。
最初は『澤村君に会いたい』って書こうとしていたから、それを書いていたら、もう叶っていることになる。
新月ってすごい。
「ね?お月様ってすごいでしょう?」
私にささやくキョウコさんに『まぐれですよ』と、言い返した。
当たり前のように私の隣に立った澤村君にドギマギしつつ、それを好奇のまなざしで見つめる(というか、天使の通訳を聞いている)キョウコさんを目で牽制し続けた。
ロゼを飲んだものの、手元がふるえてグラスに歯がカタカタとぶつかって綺麗に飲めなかった。
カウンターに置かれた澤村君のがっちりとした左手の薬指に光り物がないのがちょっと目に留まって、そんなことで一喜一憂した。
おかげで、キョウコさんは私を見ながら、ニヤニヤし続けていた。
・・・・・・やばかったな。
私は奴の沈黙攻撃が苦手だった。