long novel
□走り出す始発電車
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最初は夢だと思っていた。
バトルも弱い、よくドジをする、接客が得意なわけでもない、電車に興味があるわけではない。
我ながらよく入社できたなぁ…とユイはネクタイを整えながら改めて思っていた。
彼女は明日からライモンシティのギアステーションで鉄道員として働くこととなっている。
袖を通した真新しい制服に、ユイは鏡の前でくるっと回って確認しては口元を緩ませる。
深緑色の長袖の上着に、同じ色の膝上丈のプリーツスカートがなんとも可愛らしい。
ユイが知っている範囲では、女性の駅員はギアステーションでは見たことがない。
どんな制服だろうかと不安も抱いていたが、余計な心配だったようだ。
「初めて、だなぁ…仕事なんて」
数年前、家を出てから行く宛もなくずっと旅を続けていた彼女には、どこかに身を留めて働くという経験は全くない。
不安や心配もあるが、ユイの心にはそんなものより希望や期待で溢れていた。
「サブウェイマスターさんたちの他にも、たくさん先輩ができるんだよね…はぁー…」
胸に溢れる思いを吐き出すようにゆっくりと息を吐く。
長らく泊まってきたポケモンセンターの客室もこれが最後、と思うとなんとなく寂しく思えた。
「明日から…頑張らないと」
服の襟を直してからぎゅっと拳を握って自分に言い聞かせるように呟く。
その言葉に答えるように、ベルトに並ぶモンスターボールが小さく揺れた。
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