素晴らしき頂き物
□例え世界の全てがお前を拒絶しても
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◇◆ ◆◇
静寂が辺りを支配する。女以外誰一人としていないその部屋は、まるで水を打ったように静かだった。時たま女が、読んでいる本のページを捲る音が聴こえてきた。
〔カランカラン……〕
西日が静かに傾く中、その店に少女は入ってきた。茶髪に深い紫の瞳を持った綺麗な少女だった。年はまだ中学生中間程。少なくとも、家主である女よりは大きかった。
女が本をパタンと閉じた。そして、入ってきた少女に微笑みかける。少女も微笑み、女に言った。
「話、しに来ました」
柔らかな声だった。年頃の若々しい声。女は微笑みを崩さずに少女に話した。
「“話”?……ああ、“語り部”か」
女がそう言って無造作に横の本棚からノートを取り出した。そして羽ペンを持ち、ノートのページを捲った。ノートにはびっしりと文字が書かれていて、とあるページから真っ白だった。
女はその真っ白なページを見つけ、少女を見、
「では、どうぞ」
そう言った。いつの間に近くの椅子に座っていた少女は微笑みを返し、外を見た。何もない。橙が広がっているだけだ。
「……、あの日は雨だったなぁ……」