イナゴ短編ろぐ。2

□奪っちゃった。
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あぁ。

そういう顔、凄く


「そそります」



あっはは。


どうしても、上がってしまう口角。

そこから洩れる哄笑。

歓喜に騒ぐ自己を抑えられない。

ああ、全身を這いずる快感に、震えてしまう。


渇いた唇を、舌で舐めた。

舌舐めずり。

相手には、そう見えたんだろう。



「ほんっとう…、良い様ですね…っ!!」



床に散らばった、桃色の髪の毛。


その中央にへたりこむ霧野先輩。


肩が震えていて、恐怖に見開かれた双眸。零れ落ちそうな翡翠の光を抱く大きな眼球は、涙で濡れていた。
睫毛まで小刻みに震えて、その度に、雫がぽろぽろ落ちていく。


肩の辺りは、散切り頭の毛先が揺れている。

首筋には赤い痣が幾つもこびりついて、はだけたシャツからは、血の滲む傷が覗く。


端麗な顔立ちは、悲痛に歪み、いつもの可憐さが見る影もない。





「かり…、や…」


掠れる声。

震える言葉。


凛としたよく通る声が、こんなにも、みっともなくなるなんて。



ああ。最高だ。



「…なんですかぁ?先輩」


頬に手を伸ばす。

触れると、ビクンッと、跳ねる体。


怯えすぎだよ。


先輩。




「そんなに、俺が怖いですか?」


コク。

桃色の頭が垂れる。



「髪の毛切って、ちょーっと悪戯しただけじゃないですか。」


大きな瞳が、みるみる涙に沈む。

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