イナゴ短編ろぐ。2

□嫉妬。
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(先輩の後輩は俺だけですので。な、マサ蘭)






遠くに揺れる桃色の頭。


すぐ側には、明るい紫色した葡萄みたいな頭がピョコピョコ。




むかつく。




視線は無意識に、あの2人へ行ってしまう。


苛立ちを隠せず、歯を噛み締めた。


桃色の髪を靡かせて、霧野先輩が駆け出す。

その後に続く紫頭は、影山ヒカル。新入部員。


影山は何かとアドバイスをくれる霧野先輩になつき、良き先輩と慕っている。


そりゃもう、霧野先輩に始終くっつきっぱなしだ。




「…むかつく」



側に転がっていたボールを思いっきり蹴り上げた。







うわ。


影山の情けない声が響く。

見事命中。

ほくそ笑む。


足下へ飛んできたボールに咄嗟の反応が出来なかった影山は、無様にすっ転んだ。


「ざまあみろー」



心で囁く。


満足だ。あとは…


素早く練習に戻ろうとしたところに、怒号が響いた。


「狩屋!!」


気付いた。



そうそう。

先輩は俺を叱ってればいいんですよ。


俺の先輩なんですから。





・・・・・・・・・・・・・・・・



(付き合い始めたというのに先輩はキャプテンのことばかりだ。な、マサ蘭)








保健室。


白いカーテンを開ければ、瞳を閉じ、浅い息を繰り返し眠る霧野先輩。


狩屋マサキは、その寝顔を見詰め、野放しにされた桃色の髪に触れた。


普段は2つにくくった、鬱陶しい髪の毛。


走る度に、揺れて光って、目障りな髪の毛。




部活中にいきなり倒れるとか。

どんだけ、無理してるんですか。



白い肌が赤く染まっていて、額には冷却シートが貼ってある。



微熱では、ないんだろうな。



苛々する。


キャプテンのためとか、へどがでる。



狩屋、隙間から息の洩れるその唇を、自らの唇で塞いだ。



理由はよく分からない。

衝動的に、とでも言うべきだろうか。




「…っ」


咄嗟に我に返り、顔を起こす。


すると、大きな瞳が狩屋を射抜いた。





起きたんだ。


いや、起きてたのかな。








「寝込み襲うとか、さいてー…」




嘲るような響きを持つ言葉に、確かに、と自分でも苦笑した。




「けだものだな…お前」


ニヤリ、と顔を歪めて笑う霧野蘭丸。嘲笑に似たその笑みは、狩屋の胸を抉った。

しかし、狩屋はそれを面に出さず、気丈な態度を貫いた。


狩屋は口を開く。



「…でも、先輩も満更でもなさそうですねぇ?」



潤んだ瞳を細め笑う霧野蘭丸は妙に艶っぽく、

紅潮した頬に触れると、明らかに熱かった。



「…はっ。キスくらいで、慌てるかよ。あと、さわんな。気色悪い。」


「…それって、これ以上のことして欲しいってことですか?」


「…自惚れんなよ。」


掠れた声。

いつもより荒い息の音が、静寂に響く。


拒否しときながら、頬に触れる手を退かす様子の見せない霧野に、狩屋はほくそ笑んだ。


本当に、弱ってる。



弱々しい。

口調は強いが、態度がそれに伴っていない。


狩屋はそんな霧野を見て、何故か勝ち誇ったような気持ちになる。


「お前、部活、さぼりだろ…、さっさと戻れ。」


今の先輩、どこまで抵抗できるんでしょうねぇ。



最初の醜態なんか、どうでもよくなった。







「…キスがダメなら、なにしようかな。」



狩屋は、そばの棚の文具入れの中の鋏に手を伸ばした。





鋏で、鬱陶しい髪の毛を切っちゃおっかな。


どーせ、それも、キャプテンのためなんだろ?




・・・・・・・・・・・・・・・・


(最後はいい感じで終わりたい)










「神童とお前は違うよ」



そんな言葉で、

嫉妬が消えるわけないじゃん。


霧野先輩のその緊張感のない笑顔。

心底むかつく。



寒さに晒した顔の表面が、ヒリヒリ痛い。

乾燥した唇を、舌で舐めた。


隣を歩く、彼の横顔を伺う。



…やっぱり、可愛いなぁ。


くそ。






「神童先輩ともう話さないでください」



あぁ、もう、


言いたいのは、こんな、

我儘な言葉じゃなくて。



「なんだそれ。いやだよ。」

「なんでですか?やっぱり浮気なんですか?」


「だから、違うって」


「じゃあ、」




証明。





「今、俺に愛してるって言ってください。」






(言いたかったのは、)

(こっち。)





………………………




俺が一番だと証明してよ。

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