イナゴ短編ろぐ。2

□代用品。2つ。
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(浜野を代用品)












「浜野、俺と付き合わない?」



静止する浜野。

ゆっくりと此方を見て、俺を凝視する。


団栗眼がさらに真ん丸になり、呆気にとられたような間抜け面。


ああ、浜野。

浜野って素直で



すごい、いい。





「な、なに…言ってんの?」


ジョーダン?

動揺に震える言葉。

浜野はシャツの裾を握りしめている。ギュッと、固く握りしめている。


なんだか、いつもより幼く見える浜野に、思わず、笑みが零れる。




微笑ましくて、笑ったんじゃない。






これは、嘲笑。



ああ、最低だな。

俺。




「ジョーダン、じゃないよ。」



ギョッと、浜野が固まった。そして、俯く。




引いてる。



当たり前か。

男同士だもんね。


だけど、そう思った自分に、一番、引いてるんだろ?




本当に、浜野は詠みやすい。



「…俺、男だよ。男同士とか、おかしくね…」


ああ、浜野。


今、お前、自分の言葉に傷ついてる。


本当に、浜野は、素直だ。



「しってる。いいじゃん。性別なんか、関係ないじゃん。」


「で、でも、俺…」


泣きそう。

浜野が泣きそうだ。






「速水が、好きだから?」



浜野が、顔を上げる。

驚愕に見開かれた瞳が、俺を貫く。



そして、困ったように笑った。


悲痛と悲哀に満ちた、その笑み。




あーあ。

やっぱり、浜野は

いいなぁ。


「霧野、なんで、しってんの…」


「わかるって」


「…サイテーだな。俺、自分は速水好きなくせに、男同士はおかしいとかさ…」


ごめんな。


浜野は小さく呟く。


「ちゅーかさ、やっぱり、霧野、ジョーダンだろ?俺からコレを訊き出すために…」


「だから、ジョーダンじゃないって」


浜野って、本当に、いいなぁ。

素直で明るくて、

優しいし、









単純だし。



「今の、浜野の気持ち、あててやろっか?」


自分は速水が好きなくせに、想いを伝えたいと思ってるくせに


実際、自分が同性の友人に告白されたら、引いちゃって。

それを、絶望している。


「速水も、きっと、引いちゃうんだろうな、って思って、哀しいんだろ?」


「…っ」


浜野って、本当に素直。

いいなぁ。



感情思考が丸解り。

心が筒抜け状態。







「俺、可愛いし、欲望の捌け口としては、上等でしょ?」



俺をさ、速水の代わりにしていいよ。



浜野も、そういう目で見るには丁度いいし。


捌け口として最適。

浜野って、軽いんだもん。




「浜野、いや、浜野くんって、呼んであげようか?」


そのかわり、



俺もお前を、神童の代わりにするね。



神童には、酷い事出来ないから。







「ねえ、浜野くん、付き合ってください」












・・・・・・・・・・・・・・・・・・



(狩屋を代用品)













「俺はさぁ、神童が好きなんだよ。だから、お前はただの代わり。」


ほんの少し、狩屋が口角を歪めた気がした。




悲痛に、グシャッと、泣きそうな表情を浮かべたような。




ああ、狩屋、お前って


本当に、可哀想。



「お前なんか好きじゃない。」


「別に、いいですよ?」


狩屋は、俺の非情な言葉に、無理矢理笑って見せた。


いいなぁ。

そういう顔。



無理してる感じ。

頑張って気丈に振る舞ってる感じ。



「分かってますから。先輩が俺のこと嫌いなことくらい。」


だから、俺を選んだんでしょ?



狩屋は嘲笑混じりに続ける。



「神童先輩は、振り向いてくれませんもんね。」


蔑視の眼差し。

狩屋はなかなか、屈しない。





だけどさぁ


狩屋、知ってる?


狩屋は俺に反撃してるつもりなのかもしれないけど、

全く、ぜんっぜん、ダメージ零。



寧ろ、




お前を代用品にして良かったって、


自分の判断に満足しちゃうんだよ。

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