イナゴ短編ろぐ。2

□信じられない狩屋くんつめ。
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信じるのって、難しい。


俺にはまだ、

怖い。




どうしてあの人はあんなに真っ直ぐなんだろう。



善意を盾に、鬱陶しい正論を押し付けるような馬鹿供とは違う。


俺に同情して、偽善に笑む自己陶酔者とも違う。




ただただ、

俺にぶつかってきた。

みっともないくらい素直な言葉。

みっともないくらい真摯な態度。



馬鹿じゃないの。



だから、こんな

俺なんかに
嵌められるんだよ






・・・・・・・・・・・・・・・・

(童話持ち出す女々しいマサ蘭)



「ねえ。霧野先輩、シンデレラって知ってますよね?」



怪訝そうな表情を浮かべて、先輩は俺をまじまじと見詰めた。


相変わらず、大きな瞳に宿る、透き通った翡翠の光が綺麗だ。


少し眉をひそめ、先輩は口を開く。



「…知ってるけど。なんだよ、なんか女子みたいな話題だな。」


「女々しい霧野先輩に合わせてあげたんです。」


「…」


軽口に、一蹴で返された。

微妙に痛い。




「ちょっと、真顔で蹴らないでくださいよ。けっこう、真面目な話なんで、本題入っていいですか?」


「勝手にしろ。」


あからさまに不機嫌な態度。


でも、話は聞いてくれる。





「…シンデレラは、どうして、逃げたんでしょうかね?」


あの時、愛しの王子様を振り切ってまで。


「そりゃ、魔法がとけちゃうからだろ」


「どうして、魔法がとけたら、逃げなきゃいけないんですか?」


「だってさ、もとの、みすぼらしい灰かぶりになっちゃうからだろ?」


「…やっぱり、灰かぶりでは駄目なんですね。」


シンデレラは、信じられなかったんです。

王子様を。


絢爛に着飾った自分しか、王子様に愛してもらえない。


シンデレラは恐かったんです。


信じられなかったんです。




愛しい人すら、信じることは難しい。


ましてや、他人なんて。




無理でしょう?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(鬼畜マサ蘭)




「…先輩って、お人好しですねぇ」


カチャリ。

鍵を閉めた。


音に反応して警戒を強める霧野蘭丸に、狩屋マサキは嘲笑を浴びせる。



部活終了後の更衣室。


もう、誰も邪魔者はいない。

呑気にやって来た霧野を、狩屋は獲物を品定めするように見詰める。



馬鹿だなあ。

優しすぎだ。



「俺、あーんな酷いことしたのに信じる″だなんて」


信じるものがすくわれるのは、足だけですよ?


狩屋は唇を舐め、霧野に接近した。



壁に追い詰める。



霧野先輩のその当惑した顔。

すっごく好き。




狩屋は、ポケットからカッターを取り出した。



刹那、一束相手の頭髪を掴み、切り裂いた。



散切りに千切れた髪に、霧野は呆然とする。



「…次は、」







右頬にしようかな。





………………………




信じるとか、

気色悪いこと言わないでよ、



そんな真摯な眼差しで言うな。


気の迷いを起こしちゃうから。


信じたら、裏切られるでしょ?

俺、アレ嫌なんだ。

だから信じるとか、馬鹿みたい。







もう二度と、俺を信じるだなんて

言えないようにしてあげる。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・



(最後はちょいデレたマサ蘭)





「ごめんなさい」


あーあ。今日こそは言おうと思ったのに、また、言えなかった。



だってさ、あんたが俺を許したみたいに優しくするから。


何にもなかったみたいに先輩面するから。


俺を誉めるし、


もう、なんかさ、俺、謝るタイミング失っちゃったよ。


でもさ、俺をシードとか言うワケわかんないものだと誤解した先輩も悪いと思いますよ。


まあ、俺にはダメージ零だったですけど。


「この人滅茶苦茶焦ってる。」

って馬鹿にしてましたけど。




もう。


俺、謝りたいんですよ。



だから、もう一度怒ってください。


そしたら

ついでに謝れるから。

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