イナゴ短編ろぐ。2
□闇堕ち蘭妄想。
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狩屋マサキ視点
霧野先輩は押しに弱い。
加えて涙に弱い。弱者に弱い。
(自分では気付いてないんだろうけど)
根っからのお人好し。
世話焼きでお節介で、
鬱陶しいほどの正義感。
桃色の髪を翻し、
翡翠の瞳がきらりと光る。
チカチカ、眩しい。
正義の色。
混じりっ気のない、
霧野蘭丸という存在。
……………………
で、あんたはダレ?
なにその濁った穢い色。
桃色も翡翠色も台無しになってる。
「神童を苦しめたサッカーなんかいらないんだ」
は?
え?
霧野先輩、
あんたの正義の色は、
どうしちゃったの?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
神童拓人視点。
「神童」
全身が粟立つ。
背筋を這う絶望が、身体を萎縮させる。ああ、頭で反響するあの声。このまま跪き、咽び泣きたい衝動に苛まれて膝を折った。
「…会いたかったよ」
慇懃な態度。気味が悪いほどの猫撫で声。鼓膜を震わす甘い声は、そのまま脳髄へと染み渡り、神経まで侵していく。
もう、どうしたらいい。
頭が掻き乱れる。全身に虫が這うような違和感。嫌悪感。不快感。
気持ち悪い。
どうして?
君は、本当に、霧野?
反芻するのは、君の。
君の、笑顔。
優しくて、強かな光を携えた君の、笑顔。
愛しい君の笑顔。
胸に轟く慟哭を懸命に抑え、辛うじて、君を見る。
なんだ?
誰だよ。お前。
「…神童、俺が、全部全部、ぶっ壊してあげるから」
霧野は、そんな風に、笑わない。
狂気に蝕まれた翡翠の瞳は、醜く歪んでいる。
弧を描く唇。獣のような鋭利な眼光。
温かさの全く感じない、生気のない表情。
霧野は、こんな、
俺のせいだ。
俺が弱くて、いつも君に頼ってたから。
君は俺に、押し潰されてしまったんだ。