イナゴ短編ろぐ。2

□贅沢な悩みだって?
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ぶっちゃけ、人の好意って重いんだ。


いつか幻滅して、

離れてく癖に、好きだとか言うんだもん。



………………………




「どーせ人間なんて、外見がすべてなんだよ」


ね?


紫黒に染まった大きな瞳が笑みに歪む。




「よかったね。この世に容姿の優劣なるものが存在していて。どうしってって、君とオレは、素晴らしい武器を持っていることになるじゃないか。」


中身、技量、器量なんて誰も見ちゃいない。



深緑の髪を弄び、ミストレーネは続ける。




淀みなく紡がれる声ひとつひとつに、

洗脳作用が含まれてるかのような、

奇妙な甘い響きをたたえて。



「ねえ霧野蘭丸。君も割り切ってしまったらどうだい?その優れた外見をもっと全面に出して、有効活用するべきだよ。」



何かを、言い返したいのに、



何故か、

彼の言葉に、



聞き入ってしまう。






それは、今まで生きてきて、


紛れもなく感じてきたことだから。







ああ、もうだってさ、

だってみんなそうだったし。



骨格と表皮で形作られた造形に勝手に夢見て、

酔いしれて、

妄想と願望と理想と希望がごちゃ混ぜになった

滑稽な作り話を押し付けられても、


混乱するだけだ。


理想の霧野蘭丸?


そんなのお前達の妄想じゃん。










勝手に幻滅されても、

困るよ。




『結局、中身なんか見てくれないってことですか。』



ああ、

低俗で低能で、


馬鹿みたい。




気持ち悪い。嘔吐が出る。





思ってたのと違った?

馬鹿じゃないの。


何だよソレ、








もうさ、




人の好意って重いんだ。



嫌なんだよ。





どうせ、幻滅して、

離れてく癖に。

好きだとか言うんだもん。




「…さっきから、黙ってばっかだ。どうしたんだい?」


ミストレーネの手が此方に伸びた。


そっと唇に触れられた感覚。



「この口はお飾り?霧野蘭丸」


「…お前がごちゃごちゃ、うるさいから」


やっと喋った。

ミストレーネが、少しだけ高い声色で呟く。


嬉しそうな、うきうきした様子で。




「ほら。次は君の出番だよ。オレの意見に反論して見せて。」


「…反論してほしいわけ?」

「当たり前じゃないか。オレの言ったことが事実だったら、虚しいことこの上ないだろう?」


「なんだ。お前も、そう思ってんの?」


「まあね。だけど別に、悲劇のヒロインもとい、ヒーローを気取るつもりはないさ。君のようにね。」


「うっさい…」


「あはは。大丈夫。憂える姿も絵になるよ。君なら。」


「お前に誉められると、気持ち悪い。」





………………………



もし俺が

傷だらけで醜くなっても




好きだと言ってほしい。

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