混沌の旅人

□幾重もの星
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ごめんなさい、リンさん。



貴方へ伝えるには、



もっと先になりそうです



ごめんなさい



でも



甘えるわけには……いかないの





















あれから、リンさんが来ることが無かった。


きっと、グリードさんが身体の主導権を握っている。
むしろ、あそこまで自由に私に会いに来てくれていた方がおかしかったのかも…。


だから、少し思い留まることもあった。


彼に会ってからの方がいいかな、って


……でも、それをいつまで待つの?


このままでは、下手をしたらリンさんの足を引っ張ることに繋がるかもしれない。


彼を信じたいんだ。


だから──
















「レインー、朝ごはんだよっと」


この監禁生活の中では、繰り返し行われている食事の送達。
それはエンヴィーの役目だった。

エンヴィーの変身能力で軍人に扮し、食堂まで行き食事を貰い、そのまま地下へ配達する。


いつもなら、寂れたベッドに腰掛け待っている囚われの少女を見て嘲笑を浮かべるエンヴィーだったが、今回は違った。

珍しく少女は臥していた。
襤褸の布団を頭まで被り、外界を遮断するかの如く隠っている。

エンヴィーは扉を蹴飛ばしそれを見た直後、足を上げたポーズのまま固まった。
右手からずり落ちそうになった食事をなんとか持ち直し、レインに近寄った。


「レインー?どうしたのー?具合悪い?」

「……」

「…無視かよ」


エンヴィーはポンポンと布団の上からレインの肩(大体の位置である)を叩くが、何の返答もない。

その際に、触れた部分が妙に熱いと感じた。
きっとレインの身体が火照っているのだろう。
エンヴィーは風邪でも引いたかと予想する。


「人間って大変だねぇ。風邪ごときで倒れるなんて。でも死なれちゃ困るんだよなぁ〜」


大袈裟に頭を振り、食事を脇のテーブルに乗せ、せめて顔を見ようと布団に手をかける。

うんともすんとも言わない彼女は頑なにくるまっている。


「そら、起き───!!!?」


布団を剥がした途端、まるでビックリ箱の仕掛けが発動したかのように、布団の中から銀髪が飛び出した。

一瞬怯んだエンヴィーだが、その眼はレインの手元を捉えていた。

手枷がはめられた両手を振りかぶり、エンヴィーのこめかみへ一撃見舞おうと構えている。


「(人間の浅知恵だね!)」


エンヴィーは反射的に笑みを薄く描いた。

自分達ホムンクルスに打撃は通用するが、それは決定打になり得ない。
そもそも、レインの細腕では満足なダメージが与えられる筈がない。例えそれが手枷で補整されたとしても。

それに、彼女は鎖に縛られた哀れな子羊。
足掻くだけ、醜く醜く泥沼へ沈むだけ。


一撃を敢えて食らい、それでも平然と佇む高等な存在を仰ぎ、絶望するひ弱な人間を見下すのも一興。

エンヴィーは、こめかみに襲い掛かってくる衝撃を待った。



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