星空からの使者
□つかんだらはなさないで
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メスカル山脈。
そこに、どうやら異常成長した魔物が出現。
山脈の整備された道がそのモンスターに選挙され、そこを利用したい人たちが立ち往生しているから一掃してほしいという緊急クエストが舞い込んできた。
どういう風に緊急性があるのかというと、その魔物たちに拐われた人間や荷物があるらしく、救出も兼ねての魔物退治。
………今回は、大変そう。
そんな訳で、今回チャットに組まれたパーティーメンバーは、
私・カノンノと、リオン、クレス、そしてキズナ。
魔物討伐と人員救出を同時進行するから、戦力的にも申し分ない布陣なんだけど……
何だか、さっきから雲行きが怪しい。いつもより風も強いし……大丈夫かな。
その異変は、皆気がついていた。
「…この風、上に登っていくと更に強くなるのかな?だとしたら厄介だね」
「ふん…どうした。帰るのか?」
「まさか!困っている人たちがいるんだ、今回の仕事は迅速に完了すべきだ。その為には、この四人が団結しなきゃ」
流石、かつて故郷のロゼット村でギルドリーダーをしていたクレスは、こういった任務に一番入れ込んでる。
私も見習わなきゃ…!
「はーいクレス先生!救出と掃討の戦力分割はどうすんのー?」
ぴっと元気そうに挙手したのはキズナ。とても強くて、私の一番の親友なんだけど、こういった事態の時にも中々集中しにくいのが玉にキズ。
でも、皆の肩の力を適度に抜けさせる雰囲気には、何度も私は救われた。
「僕は魔物討伐に当たらせてもらう。そっちの方が向いているからな」
素っ気なさそうにそう言って、スタスタ先を歩きだしたのはリオン。
実力も相当なんだけど、歯に衣着せぬ言い方と人々と関わりをあまり持ちたがらない事から、友達が少ないんだよね………
「こらリオン!勝手に進むなっつーの!カノンノのペースに合わせろ!」
「ぐっ!貴様、僕を蹴るとは…覚悟はできているんたろうな?」
「できてるわけないだろチビ」
「……許さん!!!」
あああ、リオン剣抜いちゃったじゃない!
キズナもなんか臨戦態勢だし!ど、どうしよう……?
ちらりと隣のクレスさんを見れば、彼も困ったように二人を止めようとしているけど、二人が放つ毒々しいオーラに近づけずにいた。
ていうか、何で私のペースに合わせるの?
「ねぇクレス。何で私のペースに合わせるってキズナは言ったの?」
「ああ、それはね…今回のメンバーで、回復魔法を扱えるのはカノンノだけだからね。救出された人員に、もしものことがあったら君に頼みたいから、負担をなるべく減らそうって」
「だ、大丈夫だよ!心配しなくても」
「ちなみに、発案者はキズナだよ」
キズナが?
反射的に、リオンと睨み合っているキズナを見た。
そこまで、私の事を考えてくれてたなんて…
…ォーン………
「!」
魔物の咆哮!
私たちが進んでいる道の先から…!
その声に、クレスも、いがみ合っていたリオンもキズナも瞬時に息を潜めた。
もう咆哮は聞こえない。
でも、あの音量…距離は、近い。
「…先に魔物討伐から済ませた方が良さそうだね」
「本来の出現ポイントから位置は手前か…こっちの気配を感じて、のこのこ出てくるとはな」
確かに、私たちからしたら好都合。
だけど、何だか……
「カノンノ」
「ん?なに?」
「…違和感、あるよな」
「キズナも感じた?」
ズン!
地面が揺れて、辺りの岩石がパラパラと蠢いた。
大地が揺れてる?違う、地面を踏み揺らしてるんだ!
こんなのは、余程の重量級モンスターの時にしか起こらない。
一体、どんな魔物が来るの…?
ううん、どんな魔物が来ても、私なら…。
ニアタに教えてもらった剣術もあるし、ギルドの皆と苦難を乗り越えるたびに、心も強くなった。
それになにより、
「よしゃ、行くか、カノンノ」
「うんっ!」
キズナが、いるから…
ズン!
霧がかった道の向こう側から、魔物のシルエットが重々しく、ゆっくりと近付いてくる。それを見たクレスは目で私たちに合図すると態勢を整えた。
クレスはパーティーの前衛。
魔法剣士のリオンは、援護と陽動を考えて中衛。
私もいつもは中衛なんだけど、今回は援護に徹する為に後衛。
キズナは、基本的に前衛・中衛向きの遊撃手だから、装備したレディアントによって役割が決まる。
今日は攻撃力を重視した、戦士の斧。
クレスもリオンも素早さや手数自慢だから決め手に欠けるし、私も今日は後方支援だから、徹底的に大ダメージを与えられる武器にしたらしい。
というわけで、クレスの隣で敵を迎え撃つ位置についた。
各々の武器を構えて、震える地面をしっかり踏みしめて魔物を待つ。
でも、すぐに異変を察知した。
それに気付いた皆は、思わず顔を見合わせる。
魔物のシルエットが濃くなるにつれて、かなり図体も大きくなってきてる……?
ズーン…
とうとう、霧から、その魔物の全容が明かされた瞬間。
私たちは大口を開けて固まってしまった。
「……こ、これは」
「デカパン……だよね」
「だが、こいつは………」
「………デッカ」
冷や汗がたらりと流れた。
確かに、デカパンは元々大きくて、私たちの身の丈の二倍くらいはあるけれど………
これは、その……
私たちの、軽く三倍、四倍はあるよね。
ぐふぅ、と巨大デカパンが、息を思いきり吸い込んだ、と……
「£▼♯ヵヰθ@$☆⊆!!!!!!」
「ゃっ!!」
お、おっきい…!
つんざく雄叫びに、思わず耳を塞ぐ。そのあまりの声量に、元から激しかった風が暴風みたいに私たちに吹き付けた。
ゆ、油断したら飛んでしまう……!
でも、私たちは既に隙を許してしまっていた。
「カノンノ、危ない!」
しまった、デカパンを見てなかった!
慌てて顔を上げると、そこには私に向かって、巨木を降り下ろそうとしている巨大デカパン。
素早くクレスが私と巨大デカパンの間に滑り込んで、巨木を剣で受け止める、けどあまりの重量に彼の足下が砕けた。
大変!
詠唱をしつつ魔力を練る。早く!
「アクアスパイク!」
水の玉が巨大デカパンの手にヒット。その水圧に巨大デカパンの手の力が抜けた隙を見逃さず、クレスは巨木を受け流して抜け出した。
「すまない、カノンノ!」
「ううん、私もごめん!」
油断しちゃ駄目なのはわかってたはずなのに…!
魔物は未知数、どんな敵が来ようとも有り得ない訳はない!
改めて配置について状況を確認する。
クレスは敵の眼前に敢えて躍り出て、注意を引き付ける。
リオンは少し敵から離れた位置から、詠唱を始めてる。
キズナは、より多くのダメージを確実に与えるために、出方を窺って相手の攻撃パターンを読み取ってる。
私は、魔力を変に削りすぎないことを前提条件で、この戦闘に挑んでる。
なら、私はクレスの援護!
軽い魔法でもいいから、少しでもクレスの負担を軽減しなきゃ!
私も詠唱を開始した中、リオンは先に魔法を発動した。
「ストーンウォール!」
最大ではないけど、それなりに威力のある地面魔法を発動した。
そして、巨大デカパンの真上にドリル状の岩石が出現した。
それが真っ直ぐ、巨大デカパンに降る──けど。
巨大デカパンは、素早かった。
まさかの、ストーンウォールの技を、巨木を置いた上で両腕で抱えるように受け止めた。
「なっ!?」
「き、効かないのか…なんて規格外なんだ!」
珍しくリオンのポーカーフェイスが崩れて、クレスもその光景に驚きの声をあげた。
でも、巨大デカパンの驚きの行動は、それだけに留まらなかった。
視界の端で目を見開いていたキズナに目をつけると、雄叫びとともに、彼女に向かって岩石を投擲した!
「のぉぉおお!!!!?」
いつもなら身軽に避けれるのだろうけど、戦士の斧はやはり重量。でもギリギリで命を拾った。
良かった…。
というか、なんて予想外…今の展開には、流石に皆呆気にとられた。
「なっ、なっ、なっ!寿命縮んだ…」
「小さい攻撃でもいいから、取り合えずダメージを蓄積しよう!キズナは怯んだ隙を見つけたら行ってくれ!」
「イエッサー!」
気を取り直したクレスが素早く斬り込んで、その後にリオンも続く。
激しく巨木を振り回す巨大デカパンは、かなりの迫力があるけれど、どこか焦りも見えた。
攻撃が、だんだん単調になってってる…?
巨大デカパンが、巨木を両手で握って振り上げる。この動作は!
「!チャンスだ!」
クレスはギリギリまで注意を引き付ける。
攻撃を読み取ったが故の行動。
アイコンタクトで意思疏通をしたキズナも、斧を携えて巨大デカパンに近寄る。
そして──巨木をクレスに向かって降り下ろした!
クレスは余裕を持ってそれをかわす。
それと同時にキズナは巨大デカパンの巨木目掛けて、弧月閃を繰り出す!
三日月の軌道は巨木を真っ二つに割った。
武器が短くなったことに困惑する巨大デカパンへ、猛追をかけるのはリオン。
接近から詠唱に方針を変えたリオンは、先程のような馬鹿はすまいと、非物質系の魔法攻撃に切り換えた。
「いけ、デモンズランス!」
闇系魔法の鋭い刃が頭上から降り注ぎ、巨大デカパンは防御の姿勢をとった。
それでも防ぎきれず、大ダメージを与えることができた。
「よし、イケるぞ!」
巨大デカパンは、キズナによる武器破壊、リオンによる魔法攻撃、更にずっと粘っていたクレスによる体力消耗で、満身創痍。
もう少しで、倒れる…けど、やっぱりおかしい。
なんで、まだ…立ち向かってくるの?
巨大デカパンは、短い巨木を構えて立ち上がろうとするも、脚がもつれて立ち上がれない。けども、その目は魔物特有の獰猛さが宿っている。
いや、獰猛さ…じゃ、ない。
なにか、使命感…みたいな。
「なぁカノンノ。あの巨大デカパン、メス?」
「え…」
砂埃で咳き込むキズナの質問に、思わず間抜けな声が出た。
で、デカパンに…性別あったっけ?
「わ、分かんない…」
「だーよなぁ…ちょい待ちーリオン」
止めをさそうとしていたリオンの頭を叩いて、巨大デカパンの元へスタスタと歩いていくキズナ。
それにクレスは疑問そうに首を傾げて、リオンは叩かれた頭を不機嫌そうに擦った。
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