混沌の旅人

□逆さまの壺
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死を、待つのみ…?




エンヴィーさんの言葉が、信じられなかった。



死を、待つのみ



そんな──…



信じられなくて、エンヴィーさんにまるで縋るように見たけど、彼も汗を流していて。


悪い冗談じゃないことを──証拠付けていた。


リンもエドワードさんも、真実を覆したくてエンヴィーさんに詰め寄っているけど、何も反応を示してくれなくて、また言葉に詰まっていた。


リンも余程ショックなのか、アメストリスではなく、母国語であるシン語で何やら口から漏らしていた。


エドワードさんも顔を俯かせて、歯を軋ませた。

アルフォンスくんの事を、とても心配しているようだった。

一人にしないと、約束した。


──でも、只絶望するだけじゃ、何も発展しない。


「──待てよ…?そもそもお前ら、扉扉って…そもそも、何をしようとしてるんだ?

お前らの言う“お父様”ってのは、ブラッドレイ大総統のことか?」


エドワードさんの推測に、私も心の中で同意した。

じゃないと…あの時、グラトニーさんと一緒にいた説明が…つかない。

でもエンヴィーさんは、

「大総統?はっ!あんなガキなワケあるかよ」

すっぱりと否定した。

「あれをガキ扱いカ…」

「ということは、大総統も造られたんだな?」


“造られた”

…それは、ホムンクルスのこと?

じゃあ、…ブラッドレイ大総統も、ホムンクルスなんだ。

…でも、そう言われたら、何故だか…納得がいった。


だって、あの時──ランファンさんを傷つけた時の、ブラッドレイ大総統の、卓越した動き。

確か…ブラッドレイ大総統、六十歳、なのに…

…なのに…


「そうだよ」

エンヴィーさんは、思ったよりもあっさり頷いた。

「最悪だ…

第五研究所…

人の命を使った賢者の石…

ホムンクルス…

大総統もと言う事は、イシュヴァール戦も絡んでるか?」


…エドワードさん、



あなた、





どこまで、知ってるんですか────?




でも、それよりも、


エンヴィーさんの、いきなりの歪んだ笑みに──背筋が凍った。


「イシュヴァール!はは、あれほど見事な内乱は無かったね!

あの内乱が起こったきっかけを知ってるかい?」


──…それは、


「…?確か、軍将校がイシュヴァールの子供を誤って…」


──“誤って”じゃない。


あれは…



「このエンヴィーが!

子供を撃ち殺した張本人!!」


──…エンヴィー、さん、が…


エンヴィーさん、が…殺した。


エドワードさんが、目を見開いた。

リンも息を呑んだ。


私は…


「でも──レインは、知ってたよね?」


エンヴィーさんの、意地悪を通り過ぎた、赤い目の中の黒い瞳から──私を映した。


「あんな弾丸一発からジワジワと広がっていって面白かったよ!
ほんっと、お前ら人間は単純だな!

そういえば、あの時穏健派将校に化けて撃ったんだ!そいつは後の軍法会議で裁かれたね!

邪魔な奴も消せて一石二鳥!!」

まくしたてる様に、一気にイシュヴァールの真実を述べるエンヴィーさんから、目が離せなかった。


人間はホムンクルス以下。


それを、思い知らせるように──私達人間に、語る。


バシャッ


おもむろに、エドワードさんが立って、エンヴィーさんに向かって歩き始めた。

その目は──静かに、怒りを宿していて、それが表情に徐々に浮き出ている。


「お前が…何の罪も無い子供を殺した野郎か…

東部も、俺達の故郷も滅茶苦茶にして…

イシュヴァール人を追いやって…

スカーという殺人鬼を生み出して…


あいつの…


…ウィンリィの両親を奪った内乱の始まり…


お前がーーーー!!!!!」


ゴッ!!


エドワードさんの怒りが籠もった、機械鎧の右腕が、エンヴィーさんの顔を殴り付けた。


でも──…


エンヴィーさんは、その拳にピクリとも動かなかった。


…おかしい。

殴られたら、少なくとも身体がブレても良いのに…

何で…?


「──やるか?ガキ共」

ドスの利いたエンヴィーさんの声色に、危険を感じたリンが「退ケ!」とエドワードさんに言う。

ゆらり、とエンヴィーさんは立ち上がって、バキバキ──と、独特の錬成反応をさせて、変化し始めた。

「どうせここで全員死ぬんだ。

冥土の土産に見せてやるよ」



バキバキ──…


エンヴィーさんが、異形のモノに変化するのが、変身の過程で、すぐに分かった。

…やばい、かも…?


私も立ち上がってエンヴィーさんに近付こうとしたけれど、リンに腕で遮られた。

「レイン、下がってロ。危険ダ」

「でも…」

「大丈夫。俺たちだって易々と死にやしないサ」

にかっ、とまるで安心させるように微笑むリンに、内心緊張感が解けた気がする。

でも、まだ変身を続けるエンヴィーさんを、また緊張した面持ちで見た。


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