番外編

□短き命を君に〜The First Story〜
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京都の奥深くの山の中、そこには千年を生きる大妖怪が棲んでいた。



普段は結界で守られて、普通の人間は近づくことすら出来ない。




“普通の”人間は―――…。





































桜の花弁が宙を舞い、屋敷の中には三味線の音が響いていた。



縁側で三味線を弾いてる、美しい女。



彼女がこの土地を治める大妖怪である妖狐。



長い銀色の髪に桜の花弁がはらはらと落ち、その姿は幻想的だ。







「妖狐様ー!!」






1人の妖怪が慌てた様子で妖狐の元へ走ってきた。




妖狐が手を止めたと同時に三味線の音が止まり、静かな眼差しで妖怪を見る。








「どうしました?」



「に、人間です!!“人間の子供”が結界の外から入ってきました!!!」




「…人間の、子供?」










_________

______

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「人間だっ!」


「ひぃ!!人間がなぜここに!!」


「やい、チビッ子人間!さっさと出てけ!!」


「ここはお前のようなひ弱な人間が来るような場所じゃないんだ!!」


「チビ!!」






「お前らにチビチビ言われたくねぇよ!俺はここに棲む“妖狐”に会いに来たんだ!!」







10ぐらいの少年が怒鳴る。


人間というだけで周りの妖怪たちは大騒ぎ。





だが、急に辺りは静まり返り、ザワザワとした空気へと変わった。






とても長い銀色の髪。
人ではない、異形な金の瞳。
頭部には耳、4本の尾が生き物のようにユラユラ揺れ動いている。


整った顔立ちが、女の浮世離れした美しさを引き立てている。







少年には、その妖怪が何なのかすぐに分かった。








「“妖狐”…!」



「…人の子、ここはお前の来るような所ではありません。
どうぞお帰り下さい」






争うつもりはない、と妖狐は言うが、少年の目はキラキラ光っており、口元には笑みが浮かんでいた。


嬉しくて溜まらないという表情。






「本当にいた!じいじの言う通りだ!」



「!この匂い…

あなた…、“陰陽師”ですね」





妖狐の言葉に、周りにいた妖怪たちが再びざわめき始めた。





「お、陰陽師!?」


「まさか、僕達を滅するために…!!」


「よ、妖狐様〜!」





少年が陰陽師と知った小妖怪たちは、妖狐に助けを求める。


怯える妖怪たちの前に妖狐は静かに立つ。







「……13代目秀元は、ここには手を出さないと言っておりましたが」




「俺はここに争うために来たんじゃないんだ」




「…では、どういった用件で?」





答えを求められ、少年は無邪気な笑みを浮かべた。







「俺は、紫蘭(しらん)!花開院 紫蘭!

今日はお前に会いに来たんだ。

俺と友達になってくれよ、妖狐!!」





「え…?」





「俺はお前と友達になりてェんだ!」







小さな手を妖怪である彼女に差しだした紫蘭という名の少年。





妖狐は彼の言葉に躊躇った。


人間の子供が自分と友達になりたいと言ったことに戸惑いを感じずにはいられない。






だが、少年の曇りのない真っ直ぐな藍翠の目。






それがとてもきれいで、強く惹かれた。









悩んだ末、妖狐は彼の小さな手を取ることを決意した。



















それが、彼らの出会いだった―――…。














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