□鋭き畏を纏った者
1ページ/3ページ





「たくっ…アイツらどこ行ったんだ…」





近くからリクオの声が聞こえたが、声を出すことが出来ない。






なぜなら__











「…よし、行ったか」




リクオの足音が遠ざかったのを確認すると、玖音が声を発した。




『ん〜!ん〜!!』



「あ、悪ィ」



『ぷはっ…』





玖音に1つの部屋に引っぱり込まれたと思ったら、押し入れに身を潜めて口を手で塞がれ声が出ない。

どころか息すら出来なかった。




止めていた分の息を吐き出すと、荒れた呼吸を整える。





「そんなに苦しかったか?」



キョトンとした顔で訊く玖音をキッと涙目で睨んだ。




『当たり前です!!全力で走って息切れした挙句、息を止められて酸欠で死にそうだったんです!!』






今も違う意味で心臓がバクバクと動いている。



もう1度深呼吸をして、息を整え、今の置かれている状況にようやく気がついた。




狭い押し入れの中で2人きり。
しかも玖音が桜を抱きかかえるように後ろにいて、2人の距離はかなり近い。


怒りと酸欠で真っ赤になっていた顔が、違う意味で赤く染まっていく。





「へぇ……意識してんだな」



『っ!!!』




桜の反応を楽しむように回していた腕に力を込め、更にぎゅっと桜を抱きしめた。


その行動に桜は更に動揺する。





『か、からかうのは止めて下さいっ!!』



「からかってないぜ?至って真面目だ」




絶対にからかっている。

桜の中では確信に近い。




抱きしめられているせいか、リクオに後ろから抱きしめられている錯覚をしてしまう。





「なぁ、奴良リクオもいつもこんな感じに抱き締めてたんだよな?」



『……っ!!?』





そう囁かれて、体が硬直する。




そして玖音という妖怪は心を覗けるということを思い出した。

もしかしたら、桜の心から記憶すらも覗き見たのかもしれない。



そう思うと何とも居た堪れない気持ちになった。








「さっきの続きでもするか?」



『え…?』




急に言われたことに疑問が浮かんだ。


しかし、自分の体温よりも冷たい手が首元にいき、背筋がゾクッとした感覚を覚えた。





そして艶っぽい声音で、桜の耳元で囁いた。




「さっきも言ったが、お前は俺のお気に入りのおもちゃだ。俺、お気に入りは大切にするんだぜ?」




『し、知りませんよ…そんな事…』






何とか言葉を絞り出したが、声はみっともなく震えていることだろう。



その反応が更に玖音を楽しくさせた。





「試してやろうか?」




首筋に柔らかい感触がして、身の危険を感じた桜は必死に足掻いて押し入れから飛び出した。




「何で逃げんだよ?」



『く、玖音さんが変なことするからでしょう!!』



「まだ何もしてねーだろ」



『しました!!』




必死に抗議する桜に、玖音は笑いながら肯定も否定もしない。







「こんな所にいやがったか」





もめていた声に気づいたリクオが、踵を返し戻ってきた。




玖音は軽く舌打ちし、元の面白がっている笑みに戻った。






「はぁ…ま、今回もお前の勝ちって事で桜はお返しするぜ」



「あぁ」




桜はリクオへと駆け寄った。



しかし玖音は何故か子供の姿へと戻り、ニコニコとしながら桜へ手招きをする。


子供の玖音には警戒心の欠片もない桜は、手招き通りに玖音の近くまでと踵を返した。


近づいてきた桜に玖音は思いっきり抱きつく。





「この姿なら警戒心も出ねーだろ?」



「玖音っ…てめぇ!」



「んだよリクオ。子供に嫉妬なんて見苦しいぜ?」





先ほどまでは玖音の中身は子供だと思っていたが、撤回しよう。


玖音は確かに子供だが、大人の言動をするという厄介で面倒な子供だ。
子供ということを良いことに玖音は色んなことをする。

非常に困った話だ。









「何をしているんだ、玖音」




「っ!!!!」





声のした方を向く。


玖音は青ざめた顔で、その人物の名を呼んだ。





「…せ、青龍……」








.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ