□長くて切ない片思い
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色々とあった1日は夜が明けていき、桜は疲れのせいかぐっすりと眠れた。




そして宮羅組に心配させるのも気が引けるので、「帰ります」と言った桜を、舞姫は必死に呼び止める。




「しばらくでいいので、ここにいて下さいまし!

しばらく桜に会えなくなるのですから、それまで一緒にいたいですわ!!!」





『え、は、はい…』






舞姫の押しに負け、しばらく留まることになった。






そして今、桜は遊戯組の縁側を歩いている。





庭ではこの組の小妖怪たちが楽しそうに遊んでいた。





昨日のことが嘘のようだ。






『……!』





行く先に見覚えのある人物がいる。



包帯を体に巻いた幼い少年が団子を片手に縁側に座っていた。






『玖音さん…?』






思わず声をかけてしまった。





玖音は自分の名が呼ばれたので、桜の方を向く。






「あれ、桜じゃん。てっきりもう帰ったのかと思ったけどな」





もう敬語は使う気はないのか、砕けた口調で話しかけてきた。




桜は曖昧な返事をかえし、玖音の隣りに腰をかける。






『もう傷は宜しいのですか?』





そう尋ねると、玖音は苦々しい顔をした。





「たくっ、奴良リクオの奴…

容赦なく斬りやがって!桜がいなかったら死んでたぞ!!?」






余り人のことは言えないが、そこが不服な玖音はがつがつと団子を食べている。



その姿は自棄食いそのものだが…


文句を言いながら、お団子をがつがつ食べる姿はどこか可愛らしい。






『(玖音さんは確かに怖い妖怪の筈なのですが…)』








怖くない。



初対面の時とは
雰囲気も口調も全然は違うけども、不思議と怖くないと感じていた。





玖音の食べてる姿を見て、少し思いついたことがある。







『(あ、雰囲気が少しだけ、夜リクオ様に似ているからですね…)』








「チッ、もう少しで勝てた筈なんだけどな」





不貞腐れたように口を尖らせる姿は、まさしく子供そのもの。




舞姫の言う通り、こっちの姿が玖音の本当の姿なんだと確信を持って言える。




子供が好きな桜は、こういう姿にきゅんっとしていた。





『(可愛い…)』






幼い玖音の姿からは「可愛い」という言葉しか浮かばない。




どんなに口が悪くても、今の玖音ならば、その言葉1つで片づけられてしまう。








「……俺は可愛くねェぞ」




『え!?もしかして声に出してました!?』






心の中で思っていた返答が玖音から返ってきたので、桜は焦った。




その理由が分からない桜に、はぁっと息を吐いて、玖音が団子の棒を片手に説明する。






「俺は本来“心の闇に棲む妖怪”だぜ?心の声は普通に聞こえるっつーの」






その話を聞いて、理解したが…


途端に恥ずかしくなってしまうのも必然。




今まで頭の中で考えてたことが、全て玖音には筒抜けだと知ってしまったから。






「奴良リクオとまだ気まずいのか?」




『う……そ、それは…』





彼は桜の感情から、昨日の出来事の記憶を読み取ったらしい。





「奴良リクオも大変ってこったねェ…」






面白そうにクスクス笑う玖音に、桜は不思議そうに首を傾げた。






『どういうことですか…?』




「あいつ言ってたんだ。

『桜が迷うのは、それだけ俺の事を真剣に考えてくれてるってことだ』って…

そう言って俺の畏を断ちきった」






その言葉を聞いて、桜の胸の中が熱くなる。






「あいつはお前の事を一途に想ってる。

桜が自分に振り向いてくれなくても…

あいつにとっては、長くて切ねぇ片思いなんだよ」






心が見える玖音にだけ分かる真実。



それを聞いて、桜の心はグラグラと揺れる。





リクオ様の気持ちに嘘はない。


本気で桜の事を大切に想って、愛している。





だが、迷いが生まれてしまう。





確かに、今までと違う感情があることは自分自身でも気づいていた。






リクオは自分の敬愛する人の息子で、自分が慕う大将。



そんな関係を崩す勇気がなかった。







「(言った通り、迷いっぱなしじゃねーか…)」





彼女の心にある迷いを玖音は感じ取った。



玖音は考え込んでしまった桜を横目に見て、何かを思いついたように口の端を吊り上げる。





「……なぁ、桜」




『何です……か!!?






玖音に呼ばれ彼の方を振り向くと
さっきまでの子供ではなく、大人の姿の彼がいた。



綺麗という言葉が似合う青年が、桜の顔を覗きこむ。




その行動に、頬を染める桜。





『ち、近いです!!!』




腰に玖音の手が回っていて、離れることが出来ない。



玖音は細身だが力強いせいで身動きすら取れなかった。







「俺なら桜に迷いも与えねーぜ?

迷うぐれェなら、俺の所にくりゃあいいだろう?」





『っ……』





空いてる手で桜の顎を持ち上げ、顔を近づかせる。





フラッシュバック的に“あの時”のことを思い出してしまった。






玖音にリクオへと当てつけとして口づけられた、あの時の記憶が脳裏に蘇る。






『(こ、このままじゃ、ま、また…)』






頭の中が真っ白になり、一種のパニック状態に。










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