□売り言葉に買い言葉
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昨日と同じ座敷に招かれ、舞姫は座敷で待っていた。

桜の顔を見ると、その端整な顔に花が咲くような笑みが浮かんだ。



玖音は桜たちの後ろ辺りに静かに座る。





「待ちわびましたわ、桜」



『昨日も押しかけたのに今日まで押しかけてしまい、申し訳ないです…』



「いいえ、私は嬉しくてよ!」





社交的な笑み。



どうやら快く受け入れられている。


こんな優しい妖怪が自分の友達だと思うと、嬉しい。






「それで、そちらの殿方が奴良組の…」






舞姫の視線は桜の隣りのリクオに向いていた。







「お初にお目に掛かります。
俺は奴良組3代目、奴良リクオと申します」




「私は遊戯組組長、舞姫でございます。敬語なんて野暮なもの宜しくてよ」




「…分かった」






桜は静かに2人を見ていると、突然とんとんっと方を叩かれ、後ろを振り向く。



自分の後ろには、先ほどまで離れた場所に座っていた玖音がいた。


いつの間に背後に立たれていたのか。
桜は目を見開いて、ただただ驚く。






「桜様、少しお話が」





小声で桜に話しかける玖音。



何の話だろうと思ったが、彼は2人で話したいと言い出した。



しかしこの部屋を出て行っていいものか悩んでいると、








「桜、どうした?」


『えっ、あ、あの…』


「桜様がお手洗いに行きたいようなので、案内してきます」


「あら、そうでしたの。宜しく頼みましたよ、玖音」






ペコっと頭を下げて、「こちらです」と手招きして桜を部屋の外に連れ出した。









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リクオ達がいる座敷から少し離れた場所。


どこまで行くんだろうと思いながら、彼の後をついて行く桜。





『あ、あの……お話とはなんでしょう?』





桜に声をかけられ、ようやく足を止め、桜の方を向いた。





「少しお伺いしたい事がありまして」




『…伺いたいこと?』






桜のオウム返しに頷いて、本題を切りだした。







「桜様と奴良リクオ様は恋人同士なのですか?」



『……はい!?





突然の質問に赤面する。


何でそんな質問をするのかなんて考える暇などなかった。





『こ、恋人同士じゃないです!!』





彼の問いかけを全力で否定した。


本当のことなのだから仕方ない。


玖音は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに口元に笑みを浮かべる。






「…左様ですか」



『も、勿論です!』



「そろそろ舞姫様たちの元に戻りましょうか」



『は、はい…』





再び彼の背を見ながら歩き出す。




この玖音という妖怪は、それを訊くだけのために、自分を連れ出したのか。








「お先にどうぞ」



『じゃあ、お言葉に甘えて…』






障子を少しだけ開けた時、

見てはいけないようなものを見た気がした。




























『え……』





少しだけ開けた隙間から見えるのは、

リクオと舞姫の影が重なり、顔と顔が密着している。




つまり、2人は口付けを交わしていた。







なぜだか分からないけど足が震えだし、桜はその場から逃げた。




桜の後ろ姿を眺めていた玖音の口元には、妖しい笑みを浮かんでおり、
桜が開けた襖を静かに閉めた。











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