U
□もう1人の自分
1ページ/3ページ
ミストガンの言う通り、ルカは丁重に迎えられた。
生憎こちらの世界に詳しくないルカは、ルカという名以外は何1つ覚えておらず、とにかく王に会おうと思ってきたと、何ともベタな誤魔化しをした。
それでも彼は納得してくれ、こちらの世界や、自分について教えてくれた。
ルカを見て「姫」と言った黒豹に似た猫は“パンサー・リリー”という名で、エドラス王国軍の第一魔戦部隊隊長であり、エクシードという種族らしい。
エクシードとは、この世界では「天使」のような存在であり、人間達にとっては尊敬と畏怖の対象となっている。
彼は人間の考えに染まった者、堕天として故郷をおわれた身だと話してくれた。
こちらのルカとは親しかったようだ。
「あなたは“ルカ・シヴィラ”、このエドラス王国の王子の許嫁であり、この国の姫だ」
『許嫁……』
貴族特有の幼い頃から決められた結婚。
自分にはあまりに突飛過ぎる言葉だ。
「あなたは7年前に姿を消し、行方不明となっていたんです」
『ゆ、行方不明!!?』
彼の言った言葉に驚いてしまう。
初めて会った時にリリーが自分を幽霊でも見るような目で見ていたことに納得がいった。
「そして、あなたが行方知れずになり暫く経った頃に王子も姿を消してしまわれた」
『えぇ!?王子様も!!?』
再び大声で驚く。
…まさか、駆け落ち?
そんな考えが脳裏に浮かんだが、何てベタな展開があって溜まるかと思い、その考えを振り払った。
『……あれは』
前方に人影が4つ。
しかし、その中の1人の後ろ姿が、ある人物と重なった。
『っ……!!』
叫びそうになったが、声を必死に呑み込んだ。
「その不気味な笑い方を止めろ、バイロ」
隣りにいたリリーが変わった形の髭が特徴の小柄な老人に声をかける。
「…パンサー・リリー」
近くにいけばハッキリと確信する。
『(エルザだ…)』
同じ顔をしている人物と出会うのは2度目なので、今回は多少冷静でいられた。
彼女はアースランドのエルザと同じ顔、同じ声をしている、こちらの世界、エドラスのエルザだ。
「うるせーのは好きじゃねェ。ヒューズ、お前もだ」
ヒューズと呼ばれた白いメッシュの入った髪に、矢印のような眉毛が特徴の青年は、その特徴的な眉を少し顰めた。
「俺もかよ。テメェ自分が一番すっげぇとか思ってんだろ、ぜってぇ」
「少しは口を閉じろ」
先程まで自分自身のことや、何も知らないルカに色々と教えてくれた時の口調とは異なっており、多少戸惑った。
エドラスのルカは、姫として大切にされてたんだと感じる。
「んー……機嫌悪いね、リリー。
ところで、そちらの可愛らしいお嬢さんは誰なのかな?」
白いマントとピンク色の鎧に身を包んだリーゼントと割れ顎が特徴の男が尋ね、それに賛同するようにヒューズが声を上げた。
「そうそう!それ俺もすっげぇ気になってた!!」
皆の目がリリーの隣りにいるルカに向けられる。
急に注目されると隠れたい衝動に駆られてしまう。
「この方は、エドラス王国の姫であるルカ・シヴィラ様だ」
「えぇ!!?マジ!!?」
「この娘が…」
穴が開くのではないかと思うほど見られ、本気でどこかに隠れたいと思う。
「これから姫を陛下のところに連れて行くのだ、そこを通して貰おう」
彼らの横を通り過ぎ、リリーの大きな背についていく。
歩きながら、ふと考えに浸る。
未知の世界に来て、未知の場所を訪れて、これから先何が起こるのか予想など出来ない。
だが、確かな目的は1つ。
仲間を取り戻す、それだけだ。
.