『夜兎の宿命を拒む者』

□『万事屋銀ちゃん』
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『………』







ここがしばらく暮らす家。







“万事屋銀ちゃん”


なんだか小さい家だな、と思ったが、口に出して言わないことにした。







「お前今、小さい家だな〜とか思ってただろ?」






ギクッと肩を揺らす。



意外と鋭いところを突かれた。





『ば、バレた…?』




「大丈夫ネ!確かに小さい家だけど、住み心地はいいアルヨ!」




『そ、そうなんだ』





住めば都。


今の私にとって良い言葉だ。







「今まで、どこほっつき歩いてたんだい!?家賃を払う金でも持って来たんかい!?」







『(うわ!?インパクトがある人が現れた!!!)』







着物を着た50代ぐらいの女性。



一見すると夜兎の私ですら怖がる容姿だ。





メガネが耳打ちのように教えてくれたが、この人は万事屋の大家“お登勢”という人らしい。


万事屋の1階にあるスナックのママとして働いているとのこと。







「ん?何だい、この小娘は?」





『(こ、小娘!?)』







確かに娘だけども、“小”は付けないで欲しい。



それでは幼いみたいではないか。




私はこれでも15歳と自分では思っているんだから。


本当の年齢は不明だけど。








「えーと…成り行きっつーか…何というか…
こいつも居候という事で……」





銀さんが珍しくおずおずと言うと、お登勢という人は怖い形相で銀さんを睨む。




「何だって!?まーた厄介者が増えるってことかい!?」




「凪は厄介者じゃないネ!こんな可愛い女の子がいたら、きっとここだって繁盛するヨ!」




「アハハハハハ!!こんな、ガキがキャクをイロジカケできるならヤッテみな!!」







新たに現れた人の言動が妙に腹正しい。




同じ天人ということもあり、過剰反応してしまう。






『…いいよ。やってやろーじゃないの!!!』






そう高らかに宣言すると、お決まりのようにメガネがツッコミを入れる。





「良くないだろー!!未成年がキャバクラって、明らかに犯罪でしょ!!」







「そじゃあ、そうだろうさ。
こんなガキをこんな所で働かせる訳にゃあいかない。
名は何と言うんだい?」





明らかに私に向けられた言葉。



その外見もあり、私も銀さんと同じようにおずおずと答えた。





『…凪、です』





「凪、そうかい。
まぁ、少しの間だったら養ってやるさ」





『……!』






その返答に戸惑ってしまう。



これが夜兎だったらすぐに切り捨てるところだが、地球人は違う。



地球人と関わったことが本当に数えるほどしかなく、地球人にどう対応すればいいか分からなくなる。






『よ、宜しくお願いします…!』






取り合えず返事をすると、お登勢さんは微かに微笑んでくれた。






「良かったネ!凪!」





神楽は私に抱きついてきた。


こんなふうに女の子と接した事もないから、どう返せばいいか戸惑ってしまう。




私は余りにも他人との関わりが薄いと初めて気づいた。
今まではそんなこと気にしなくても良かったのだ。



すぐに殺す相手と仲良くするほど、私の感性は豊かではない。









『(そういえば、私は任務の為に地球に来て…)』








あれ?

本当に大事な事を忘れてるような…






色んなことがあり過ぎて、何を忘れているのかすら思い出せない。







「どうした?」



『…何でもないよ、天パ侍』



「何だとコラァァァ!!天パをなめんじゃねぇぞ!?コラ!!」



「銀さん、落ち着いて下さい!!子供に手を上げてはいけません!!」



「うっせ――!!これは教育なんだよ!!」



『………』






先が思いやられるわ。



心の中で呆れると同時に、これからの生活に期待している自分がいた。




今日だけで様々なことを知った。





もしかしたら、この人達と一緒にいたら、今まで気付けなかったことに気づくかもしれない。
















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