『闇の中の人形(マリオネット)』
□welcome to ウェンディ
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「いらっしゃい、ルカちゃん」
あの時、言った通り、ブルーペガサスへとやってきた。
連合軍が集結する前、通信用魔水晶(ラクリマ)でブルーペガサスに連絡を入れて、マスター・ボブの別荘を集合場所にして欲しいと頼んだのだ。
その際に、「この戦いが終わったら、1度ブルーペガサスを訪れる」と言った。
「ルカ、相変わらず綺麗だね。目が眩みそうだよ」
『…勝手に眩んでれば?』
誰かさんを思い出す。
しかも久しぶりというほど久しぶりでもないのに、久しぶりに会ったような言い方。
面倒臭くなってヒビキを冷たくあしらった。
それでも、エスコートしてくれているところは紳士的だと思う。
『な、何か誕生日会みたいになっちゃってるね』
椅子に座ると、目の前には大きなケーキ。
ボブに拾われて間もない頃、ルカに喜んで欲しくて、ボブが焼いたケーキ。
笑顔を見せることのなかったルカが食べて、みんなに初めて笑顔を見せたという思い出深いケーキである。
苦笑いを浮かべるが、皆は笑顔でルカを囲む。
「ふふっ、ルカちゃんが無事で良かったわ♡」
ボブは目の前に座り、ニコニコと笑っていた。
確かに肉体的には無事だと言える。
『皆がいたからですよ』
「クスッ)たーくさん食べてねー♡」
そう言われて、ケーキを1切り取り分け、フォークで一口サイズにして口に入れた。
『(おいしい…)』
初めて来た自分は、こんな気持ちでこのケーキを食べたのだろう。
だけど、今は笑顔ではなく、涙が出てくる。
「ど、どうした?」
レンが戸惑ったように訊く。
『あ、あれ?おかしいな……ケーキが本当においしいから、かな…』
涙をゴシゴシと掌で拭くが、更に涙が流れる。
周りの皆は何て言葉をかけてよいかと戸惑いを隠せずにいる。
「(仕方ない、よね)」
ヒビキはルカの心情を悟り、ボブもヒビキから話を聞いていたので、悲しそうにその様子を見守った。
大切な者を失くして、平気でいられるわけがない。
彼女は繊細で傷つきやすく、淋しがり屋。
なのに1人で何とかしようとして空回り、1人じゃないと知っていても、誰かに頼ろうとはしない。
「(ルカは誰かに頼ることを知らない)」
頼れと言っても、どうやって頼るのと逆に問われたことがある。
4年の月日の中で、徐々に頼るということを理解したが…
今、目の前で泣いているのはあの頃の彼女そっくり……というよりはそのものだ。
「大丈夫よ、心の傷は……“仲間”が癒してくれるわ。
痛みを忘れることはないかもしれない。
でもね、その痛みを1人で背負い込んではいけないのよ」
ボブは椅子から立ち上がり、ルカを優しく抱きしめる。
『(仲間……)』
知っている。
分かっているんだ。
1人で抱え込むことで彼らに心配をかけるだけだと。
『(フェアリーテイルは、眩しかった。
皆、色んなことを抱えているはずなのに、支え合っている)』
「お前さん、このギルドのことをどう思う?」
マカロフがルカに問いかける。
『騒がしいギルド。何のしがらみもない』
「ほぉ…、お前さんはこのギルドの者が何も抱えてないように見えるか?」
『…何も抱えてない人間なんていない。家族、恋人、過去、誰もが様々なことを抱えて、生きている。
そうでしょう?』
「…それを分かっておるが、今、彼らが羨ましいと感じている」
『…羨ましい?』
「“支え合う”、それを自然と行っておるからじゃ」
そう言われ、何も言えなくなる。
特にナツを見ていると、イライラしてしまうのだ。
『どうすれば、自然に出来るの?』
「もっと人を頼ること。それが一番の近道じゃろうな」
『マスター、ありがとう。もう大丈夫』
「本当に?」
『うん。本当に、大丈夫。マスターや皆に出会って、私は大事なことを思い出したから…』
もう、あの頃の自分ではない。
沢山の仲間が出来た。
頼っていいんだ。
今度こそ、本当に。
『(支えて欲しい、そして支えたい)』
支え合いたい。
フェアリーテイルの皆のように。
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