『闇の中の人形(マリオネット)』

□welcome to ウェンディ
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「あ〜、船って潮風が気持ちいんだな〜」





ウェンディの魔法のおかげで快適に船旅を楽しんでいるナツ。




彼にとっては初めてだろう。




嬉しさのあまり、走り回る。






「あ!そろそろトロイヤが切れますよ!」






ウェンディの言った通り、ナツは倒れ込む。



解けた途端に船酔いだ。






「も、もう一回かけて…」





「連続すると効果が薄れちゃうんですよ」





「ほっとけよ、そんな奴」





グレイの冗談なのか本気なのか分からない言葉にルーシィはあははと笑った。








只今、ナツ達はフェアリーテイルに帰還している最中だ。









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「と、いうわけで、ウェンディとシャルルをフェアリーテイルに招待した」





エルザの言葉で、ウェンディが「宜しくお願いします」とお辞儀する。




唖然としていたメンバーも騒ぎ出す。





「可愛い〜〜〜!!」


「ハッピーのメスがいるぞ!!」


「お嬢ちゃん、いくつ!?」







「みんな、おかえりなさい!」




ミラが笑顔で迎えてくれる。



それはいつもの光景で、本当に帰ってきたんだなとしみじみと思う。




再会した喜びをそれぞれが感じていた。







「初めまして、ミラジェーンよ」




ウェンディに挨拶すると、ウェンディは嬉しそうにシャルルの方を向く。




「わぁ!凄いよシャルル!本物のミラジェーンさんだよ!」





「シャルルは多分ハッピーと同じだろうけど、ウェンディはどんな魔法使うの?」




ミラの言葉にシャルルがむきになる。




「ちょっと!オス猫と同じ扱い!?」




余程侵害だったらしい。




ウェンディは…





「私、天空魔法使います。天空のドラゴンスレーヤーです」







「「「「「!!!!」」」」」





周りは驚きのあまり、言葉を失う。




そんな彼らを見て、ウェンディは信じて貰えないかと落ち込む。






「「「おぉ!すげぇ!!」」」





「え…」




ウェンディは驚いたように声を出すが、周りが盛り上がって声はかき消されたようだ。






「すげぇ!」



「ナツと同じか!」



「ガジルやルカもいるし、ギルドに4人のドラゴンスレーヤーが!」



「珍しい魔法なのにな!」





彼らの反応のおかげで、ウェンディに笑顔が戻る。








ガジルは2階で、ナツとウェンディ……の猫であるハッピーとシャルルを見て冷や汗を流した。




「ね、猫……」




そして拳をぎゅっと握りしめる。




「(何故だ……同じドラゴンスレーヤーなのに、なぜ俺には猫がいねェ…)」




『…ガジル……おーい、大丈夫?』





ようやく隣りに立っていたルカに気づいたらしく、更に顔を青ざめた。


さすがにその反応にムッとして「何?」と自分から話しかけたのだが、不機嫌まじりで訊く。





「お、お前にはその………いんのか?」




『…猫?』




そんなことを訊かれると思っていなかったので、キョトンとして、うーんと悩むとピコンッと何かを思い出したらしく笑みを浮かべた。





『そういえばいたっけ。ブルーペガサスに』





その言葉を聞いてガジルは更に冷や汗を流す。





『私が拾ったんだけどね……て、アレ?』




自分の目の前にはもうガジルの姿がなかった。



キョロキョロと周りを見渡すが、どこにも姿が見当たらない。





『(私が“普通”の猫の赤ちゃんを拾って、飼い主が見つかるまで育てただけなんだけどね…)』





何とも紛らわしい言い方。



ルカらしいと言えばらしいが。





『……!』





向こう側にミストガンの姿を見つける。




しかし、彼はすぐさま姿を消してしまった。



まるで自分から逃げるように。



それに切なさすら感じ、伸ばしかけた腕は力なく元の位置に戻る。





「ルカ」





急に名を呼ばれ、後ろを向けば、グレイがいた。





『…私と一緒にいたら、またジュビアの涙でギルドが洪水すると思うけど?』




苦笑しながら彼に言えば、グレイは真顔のまま彼女の頭にポンっと手をのせるとぐりぐりと頭を撫でる。



何事かとルカは目を丸くした。






「俺も師匠を亡くした時は、すぐに立ち直れなかった。

だから無理して笑わなくていい。

けどな、お前はいつか本当に笑えると思うぜ?俺が保障してやる」





言葉を詰まらせた。


自分は上手く笑っていると思っていたが、どうやらグレイには見透かされていたようだ。



それに悔しさや、申し訳なさが込み上げてくる。





『…グレイに保障されるなんて、私も落ちたね』




「どういう意味だコラ」




『まぁ、その言葉はありがたく受け取っておく』





グレイの手を頭から退かすと、ウェンディの歓迎会を行っている1階に降りるようと歩き出す。




彼女の背を見てグレイは、





「お前は1人で頑張り過ぎだと思うぜ」






もっと周りを頼れ。



そんなことルカ自身よく分かっている。


「うん。本当に、そうだよね」と振りかえって苦笑する。





遠ざかっていく背を見ながら、まるで初めて会った頃に戻ったみたいだとグレイは感じた。





自分の中に踏み込ませない。


受けた傷には触れさせず、独りで抱えこんで苦しんでいる。







どんなに親しくなっても、そこは変わらない。








もし相手がジェラールだったのなら、ルカは彼を頼るのだろう。







「(て、俺はジェラールじゃねーしな)」






自分は自分なりに、独りで抱え込むルカの支えになってやりたいと思っていた。




ルカの背を軽く叩いて追い越す。




急に何すんの、とグレイを睨む。












ジェラールのことを考えられなくなるくらい笑わせよう。



今度こそ本気の笑顔を、見てやるんだ。



グレイの闘志に火をつけたことに彼女自身は気づいておらず、怪訝な顔を彼に向けた。














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