『闇の中の人形(マリオネット)』

□さよなら、愛しき人
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『ジェラール、さっきはナツを助けてくれてありがとう』




笑顔でお礼を言うと、ジェラールは戸惑ったように言葉を濁らせた。





「…いや、感謝されるようなことは…」





『ナツに炎をくれなかったら、どうなってたか分からないもの。

感謝するよ。仲間を助けてくれたんだから』





「……すまない」




『え?』





急に謝られて唖然とする。



今の話の中に謝る要素なんて1つもない。



感謝した後の言葉が「すまない」では何と答えたらよいか分からなくなる。







「君が俺に貸してくれた服を、失くしてしまった…」




『……!』





そこでようやく納得する。



彼はルカのジャケットを失くしてしまったことを悔いていたのだ。



そんなに落ち込むことじゃない気もするが、その優しさに少し嬉しくなるという何とも複雑な気持ちになる。



ルカは彼を安心させるように微笑む。





『別にいいよ。こだわりがあって着ていた訳じゃないし』




ブルーペガサスにいた頃、ギルドのメンバーがスーツでいる時が多かったという理由だけでこのような格好に落ちついた。


服に無頓着なため、フェアリーテイルに入ってもスーツ姿でいたというわけだ。



ジェラールがそんなに思いつめることでは決してない。






「だが…寒くないか?」




『平気。水の魔導士だもん』





それを言うなら氷の魔導士ではないかというツッコミをする者はなく、ジェラールは「強いんだな」と苦笑いを浮かべる。




2人の間には穏やかな雰囲気が流れ、彼の笑みを見たルカは頬を朱に染めた。






ふと、ずっと考えてたことが脳裏をよぎる。


今これを口にするべきか少し悩むが、勇気を出して口にすることにした。









『…ジェラール、これからどうするの?』





そう問うと、ジェラールは再び思いつめた顔をしてしまう。





「…分からない…」





消えそうな声でそう呟いた。



そんな彼を見て、ルカも悲しそうに俯く。






『…そうだよね。分からない、よね…』






当たり前だ。



これからどうするかと急に問われても答えは出ない。



自分だってそうだったのだから。





「っ…怖いんだ…」




そう言ったジェラールの体は震えていた。


どうしたんだろうとルカは彼の顔を覗きこむ。



ルカと目が合い、ジェラールが震える声で言葉を絞り出す。





「っ記憶が、戻るのが…」





怖い。


彼の言葉が胸に圧し掛かる。

ずっとそう感じながら一緒にいたのか。



ずっと…








そんな彼にルカは、







『…私は、ジェラールの記憶が戻って欲しい…かな…』




「……!」





目を見開き、顔を上げたジェラールはルカへと顔を向けた。



ルカもジェラールの顔を見つめ返す。






『ジェラールは、過去を思い出すが怖いかもしれない。

だけど、私は…エルザと過ごした日々、私と過ごした日々を…思い出して欲しい…

勝手だと思うけど、共有する記憶がないって、寂しいよ…』






自分だけがジェラールと過ごした日々を覚えているのは切ないし、虚しい。



それはウェンディやエルザにもいえること。




どんなに辛くても、記憶から逃げないで欲しい。
自分の過去と向き合って欲しいとも思っていた。







『もしも、ジェラールがまた間違った道に進みそうになったら…

今度こそ私が、ジェラールを導いてみせるよ』





安心させるように微笑む。





「ルカ…」






その瞳に彼女の姿を映す。


彼女の目は真っ直ぐで迷いがない。


そしてルカの言葉なら信じられた。








彼女の存在は、目覚めてから鮮明に覚えていた。







その理由はただ1つ。


ただ単純な話。







彼女のことが―――…。








































いてメェーン!!!!






『な、何…?』





何事かと思い、一夜が大声を出した方を見ると、何故かその場で立ち止まっていた。






「どうした?おっさん」




グレイがそう訊くと、一夜は苦しそうに…




「トイレのパルファムをと思ったら、何かにぶつかったー!!」




『何かって……』




何にと思ったが、すぐさまそれに気づいた。





自分達の周りに書かれた術式がここに閉じ込めているのだ。






「いつの間に…!」



「どうなってんのさー!?」



「っフリードのアレと同じか……いや、それ以上の魔力かもしれねェ…」



「閉じ込められちゃった…!!」



「誰だコラー!!!」





敵かと警戒心を高めるが、術式をした人物がすぐに分かった。






『…アレって…』






大勢のルーンナイトが術式の周りを囲む。



その中から前に出てきた者が1人。






「手荒なことをするつもりはありません。しばらくの間そこを動かないで頂きたいのです」





「誰なの!?」




ハッピーがそう声を荒げると、その人物は冷静に自分の正体を語る。





「私は新生評議院第四強行検束部隊隊長、ラハールと申します」






「なっ…!!」



「新生評議院…!?」



「もう発足してたの!?」




『…で、その評議院様がこんな所に何の用ですか?』




「ちょ、ちょっとルカ!!」





評議院に対して棘のある言葉にルーシィは焦る。




だが、当の評議院はその言葉を諌める気はないらしく、彼女の問いかけに答えた。






「我々の目的はオラシオンセイスの捕縛。そこにいるコードネーム・ホットアイをこちらに渡して下さい」




「っ待ってくれ!」





説得しようとしたジュラだが、ホットアイは素直に評議院に捕まると言った。




善意に目覚めたとしても過去の過ちは消せない。


罪を償う。


そうした方が生き別れになった弟に会った時に堂々としていられると。







ジュラは彼の気持ちが分かったのか、ホットアイの代わりに彼の弟を捜すと言った。




しかし、弟の名をエルザ達はよく知っていた。





“ウォーリー・ブキャナン”。





かつて、楽園の塔にいたエルザやルカの仲間であった男。







そしてエルザはホットアイに伝えた。


ウォーリーは元気に大陸中を旅していると。





それを聞いたホットアイは感謝の言葉を言って、評議院に連行された。





「何だか可哀想ね…」



『………』





彼の背が見えなくなり、一夜も限界に達していた。





「も、もういいだろ…術式を解いてくれッ……もらすぞっ!!」




「止めてー!!!」

















「いえ、私達の本当の目的はオラシオンセイス如きではありません」




『………』







ルカには彼らの言いたいことが少しだけ分かってしまった。




だけど、信じたくない。









「もっととんでもない大悪党がそこにいるでしょう。

貴様だ、“ジェラール”」







その言葉を聞いて、ルカは目を見開く。




やはり、彼らはジェラールを連行しに来たんだ。




ホットアイはそのついでに過ぎないのかもしれない。




ルカは心の中で「嫌だ」と叫んでいた。

その言葉は喉の奥で詰まって出ない。







「来い。抵抗する場合は抹殺の許可もおりている」





「…っ!!!」





その言葉にエルザも苦い顔をした。












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