『闇の中の人形(マリオネット)』

□「“光”」
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「貴様ァ!!」




エルザが剣をミッドナイトに振り上げた。


しかし、エルザの鎧がエルザの体に纏わりつき、ルカ同様にエルザを締め上げた。


その瞬間、ルカの拘束が解かれ、ルカは盛大に咳き込んだ。



エルザは自力で鎧を壊すと、別の鎧に換装し、身構えた。





「…なるほど、そういう魔法か」




ミッドナイトの魔法の仕組みに気づいたらしいエルザは、そう呟いた。





「そう。僕の“リフレクター”は全てのものを捻じ曲げて歪ませる。
魔法を跳ね返すことも出来るし、光の屈折を利用して幻だって創れるんだ」







彼の説明で、自分の攻撃が当たらなかったことにも納得する。



だが、同時に攻撃は当たらないと言われているようなものだ。







『(でも、どこかに弱点があるはず…)』






そう思い、立ち上がったルカは、すうっと息を吸い込み、






『水竜の咆哮!!』




ブレスをミッドナイトに向けて放つ。


しかし先ほどとは違い、その攻撃は屈折するのではなく、彼女自信に向かって跳ね返ってきた。



予期せず跳ね返ってきたブレスを避けられるわけもなく、
ルカは跳ね返ってきたブレスをまともに真正面から受けてしまった。






『っ……』





立つ気力をなくし、膝を地面につけた。

身動きしないところから、動けないのか、気を失っているのか、俯いているせいで分からない。






「言ったろ?跳ね返すことも出来るって。

まだ死なないでくれよ?
僕は君に、興味があるのだから」





ミッドナイトは1歩ずつルカに近づいていく。






「でも僕は、君のもっと苦しむ顔が見たいんだよ」





動かない彼女に手を伸ばしたが、エルザの剣が彼らの間を横切る。




エルザが傷を負った彼女を護ろうとするが、またしても鎧がエルザを締め付ける。






「うわぁぁぁぁ!!!」




「もっと、もっと苦しそうな顔をしてくれよ。その顔が最高なんだ!」





エルザが力を振り絞って剣をミッドナイトに投げたが、ミッドナイトはそれをかわした。





「スパイラル・ペイン」




ミッドナイトの攻撃に、ついにエルザまでも倒れた。






「まだ死なないでよ、エルザ。

ケット・シェルターに着くまでは、遊ばせて欲しいな」





彼の言葉に、ジェラールが疑問の色を浮かべる。





「ケット・シェルター……何故そこを狙う?」





何とか上半身を起き上らせて、ミッドナイトに訊ねた。


ミッドナイトはジェラールの問いかけに、ニヤッと笑った。






「その昔、戦争を止める為にニルヴァーナを作った一族がいた。

“ニルヴィット族”だ。

しかし彼らの想像を以上にニルヴァーナは危険な魔法だった。

だから自分たちが作った魔法を自らの手で封印した。

悪用されるのを恐れ、彼らは何十年も何百年も封印を見守り続けた。

そのニルヴィット族の末裔のみで形成されたギルドこそがケット・シェルターさ」






彼らは再びニルヴァーナを封じる力を持っている。


だからこそ滅ぼすのだと、ミッドナイトは言う。






「この素晴らしい力を眠らせるなんて惜しいだろ?

この力があれば、世界を混沌へと誘えるのに。

そしてこれは見せしめでもある。
中立を好んだニルヴィット族に戦争をさせる。
ニルヴァーナの力で奴らの心を闇に染め、殺し合いをさせてやるんだ!!ゾクゾクするだろう!?」






破壊を喜ぶミッドナイトにジェラールは「下劣な!!」と怒号を飛ばす。






「ふっ……正しいことをいうフリは止めなよ、ジェラール」



「っ…」





ミッドナイトが彼の近くまで歩み寄ると、






「君こそが……君こそが闇の塊なんだよ。汚くて、禍々しい邪悪な男だ」




「ち、違う…!!」




「違わないよ。

君は強制的に子供たちを働かせ、仲間を殺し、エルザを殺そうとし、自分の愛した女さえも殺そうとした。

君が不幸にした人間の数はどのくらいいると思う?

君に怯え、恐怖し、涙を流した人間はどれくらいいると思う?」





追いつめるような言葉の数々にジェラールは顔をしかめる。


彼が言っていることを自分はやったというのか。

そんな思いが胸に広がっていく。







「ジェラール。こっちに来なよ」






そう言ってジェラールに手を差し伸べた。


ミッドナイトの後ろには、闇が広がっていたが、自分の何かがそれを掴もうとしていたが…

















『ジェラール!』














闇の中に、光が見えた。




そして自分を呼ぶ声が聞こえた。


その声はとても温かく、なぜだかとても愛おしく感じる。






「……!」






そして気づけばジェラールとミッドナイトの間にルカが立っていた。




彼女の澄んだ蒼い瞳がミッドナイトを睨んでいる。






『…ジェラールのこと何も知らないくせに、知ったような口を聞くな。

確かにジェラールは間違っていた。

だけど私は、ジェラールに不幸にされたなんて思ってない。
ジェラールに、返し切れないほどの幸せをもらった!』





「ルカ…」






目の前にいる少女。

その小さな背が今は自分を救ってくれている。

闇に手を伸ばそうとしていた自分を、制してくれた。








「君は、どうしてそこまでジェラールにこだわるんだい?」




『…私にとってジェラールは…大切な“光”だから』







迷いのない言葉。




彼女の目は、ただただ真っ直ぐ前だけを向いている。












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