『闇の中の人形(マリオネット)』

□ジェラール
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『……っ』




目を開けたら、見慣れた天井が見えた。


ルカは「楽園の塔か…」と呟きながら溜め息をついた。




久しぶりに来た。




懐かしいと感じるまで、来ていなかったんだと実感する。




ルカは7年前にジェラールと知り合った。

そして4年前から彼と恋人関係になり、それをずっと周りに隠し続けていた。


ずっと、誰にも言わずに、内緒の恋人と4年という日々を過ごしていたのだ。








『(ルーシィ、大丈夫かな…?)』




ミリアーナのチューブに拘束されていたルーシィが心配になってきた。


きっとグレイあたりが助けに来てくれているだろう。

そう思うことで前を向く。





『ジェラールに会いに行かなきゃ』




ベットから下りて扉を開ければ、不用心なことに見張りが誰もいない。


信用されているのか。


それとも試しているのか。


どちらにせよ、今は彼に会うほかない。


長い廊下を歩いていた足は、どんどん速くなり、ジェラールに会うために走っていた。






今になってエルザを必要としたという事は、
Rシステムが完成して、エルザを生け贄にするということだ。





Rシステムとは死者を組成する禁忌魔法。
またの名を「楽園の塔」と言う。


そして、その魔法を使い蘇らせようとしているのは魔法界の歴史上、最も凶悪だったと言われる黒魔導士。




『(ゼレフ…)』




それは許されないことだと分かっている。

犯罪に手を貸している自覚もある。



だが、ルカはゼレフに会う理由があった。




ゼレフの声。

それが聞こえたのだ。



彼は自分に呼び掛けた。
会わなければ。





そして今、彼は大事な仲間をゼレフの生け贄にしようとしている。




誰かを蘇らせるには、それ相応の犠牲が必要なことも分かっていた。


前までの自分ならば目を瞑っていたのかもしれない。


でも今は、命が尊いものだと教えてもらった。


1人1つ。

誰もが持っている宝物。

大切なことは生きていることだと、教えてもらったんだ。





だけど―――…。












__________

_______

____












『ジェラールっ!!!』




勢いよく扉を開け、椅子に座っているジェラールの元へと駆ける。


彼の瞳もまたルカの姿を捉えた。




「げふっ!」



自分の足に感じる違和感。


蛙が潰されたような声が聞こえた足元を恐る恐る見る。



『あ、ごめん……気付かずに…』




どうやら男を踏みつけていたらしい。


すぐさま退くと、男は怒りに震えながら立ち上がった。




「こ、この……じゃじゃ馬姫め…!」


『はあ?』




こちらに非があるとはいえ、その言い草はないだろう。





『私ジェラールと話があるから、出てってよ』




蒼い瞳が目の前の男を睨みつける。


彼女の瞳に怯んだ男だが、抗議の声を出そうとした瞬間、
椅子に座っているフードの男が声を遮った。




「出てけ、ヴィダルダス」




彼の命令で、男は渋々部屋からいなくなる。



ルカとジェラールの2人だけ空間に、静寂が広がった。





「話とは何だ?」




ジェラールはいつもより低い声で彼女に尋ねた。




『…どういうつもり?エルザを生け贄にって』



「そのままの意味だぜ」



『っ…!』




それはエルザを殺すと言っているのも当然だ。


声を荒げて怒ろうとしたけど、ゼレフの復活に必要なこと。
それを望んでいたじゃないか。

相手が仲間だから。
赤の他人じゃないから。

ここまで取り乱すし、怒りが込み上げてくるのだろう。




そんなの、とても身勝手で、最低だ。






何も言えずにその場で立と尽くしているルカ。
ジェラールは椅子から立ちあがり、彼女の目の前まで近づいた。





「ルカ」


『……!』




急にジェラールの大きな手が頭に置かれ、優しく彼女の頭を撫でた。


懐かしい感覚に、ルカの動揺は更に広がり、戸惑いながらジェラールを見上げた。




「お前の姿を見ていなかったから、何かあったんじゃないかと心配していた。
無事で、何よりだ。

お前にまた触れられて、良かった…」





ルカの頭を撫でて優しく微笑んだジェラールに、胸が締め付けられた。



そこに存在を確かめるような行動。
自分を映す目。
やっぱり好きだ、と感じた。




『…ごめんね…』




そう呟けば、ジェラールはルカを抱きしめた。

いつも感じていた温もりと、彼の匂いに不覚にもホッとしてしまった。





ジェラールは自分に対して甘い。

ルカはそう思っていた。

どこまでも甘くて、大切にしてくれている。





――これだから、ジェラールを拒めない。







今だから思う。


優しくしないで欲しい。












エルザを死なせたくない。



でも、ジェラールを拒みたくない。












『(どうしよう…どうすればいいか分からないよ…。

どうすればいいの?
誰でもいいから、教えてよ…)』






フェアリーテイルの皆の顔を思い浮かべて、答えを求めた。



自分では、答えを出せない。






『(…苦しいよ…)』









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