短編集
□七夕ゆうべ
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「ねぇ。短冊になんて書いた?」
七夕の日に短冊に願い事なんて何年ぶりだろう。少なくとももう5年はないだろう。
高校2年になった今、短冊に願いをなんて。
「…なんか小さい頃のこと思いだすよな。」
ぼそっとでた言葉に淳はピクッと反応した気がした。
覚えてるか?幼稚園に通ってる頃……
『僕、淳と結婚したいってかいたよー。ね、淳はなんてかいた?』
その頃の僕は男同士で結婚出来ないことなども知らずただ無邪気に楽しくなるだろう未来に夢みて、淳に恋をしていた。
「七夕の短冊と言えば、1つしかないだろう。」
少しの沈黙が続き、淳が口を開いた。
「えっ?なに?織り姫と彦星が出会えますようにって書いたのかよ?」
半分飽きれ気味に聞き、隣りで黙々と書いていた内容を覗く。
「えっ…と雅が俺のお嫁さんになってくれますように…って…」
「だから、言ったでしょ?1つだけだって今も昔も。」
何事もなかったように平然と答える淳に顔が赤くなる。
「ばか…」
赤く染まった頬を隠すように下を向いていると、淳の温かく大きな手が僕の冷たい手を包み込む。
「愛してるよ。結婚しような。」
まっすぐただ前を向いて囁かれる言葉がとても心地よい。
「当たり前だ。幸せにしなきゃ。離婚だからな。」
その言葉に、淳はクスリと笑った。
「仰せのままに、姫。」
『僕はね、雅を僕のお嫁さんにするって書いたよ。雅だーいすき。』
あの頃の無邪気さはなくなったものの
心に刻まれたものに、今も昔も変わりなかった。