短編集

□甘い温もり
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担がれてそのまま部屋をでてまたエレベーターに乗った。さっきの場所もかなり高かっただろうにまだ上があることに驚いた。結構長くしてエレベーターが止まった。そしてドアが開いた瞬間僕は目を見開いた。そこはまるで高級ホテルのロビーのようだった。若い男の人はすたすたと歩き、僕を担いだまま器用にドアを開けた。部屋はとても大きく窓からは東京タワーがみえた。僕にとっては場違いな所…そんなことを考えていると僕はリビングのほぼ中央にあるソファーに降ろされた。
そして若い男の人には似合わないピンクの箱を持ってきた。次に僕を見つめてきて目があった。『足痛いかもしれないけど、少し我慢しろよ…』そういうと僕の足を手とり温かいタオルで拭き所々切れた足に消毒液を付けてくれた。少ししみたけど、それよりも嬉しさの方が大きかった。『あのな…俺はお前をとって食おうなんて思ってないし、おまえの身体を売る気もねぇよ。』そういうと僕の頬に大きくて温かい手を添える。『暴力も振らない。身体拭いたら、こんな狭いビルからも出してやる。』その声の温かさに僕は涙が溢れた。『やっぱり痛かったか?』消毒液を付ける手がさっきより優しい…
『違います…大丈夫です。痛くありません。』痛いわけない。こんなにも優しいのに。『そうか。』男はそれだけいうと僕に笑顔を向けてきた。
『お前名前…。』耳元で聞こえる低い声に身体がびくついた。
『前田優希です。』
自己紹介をすると、僕の頭を軽くなでてくれた。世の中にはこんなに優しい手があることを僕は初めて知った。
『俺は戸上玲二。優希…お前…俺と一緒に暮らそう。』
いきなりのことに驚いた。
そんな僕をよそに玲二さんは話を続けた。
『このあざもこの傷も今日のものじゃないだろ…俺ならお前を傷つけない。
大切にする。守ってやる。だから来い。』
今日初めてあった人なのに誰よりも信頼できると思った僕は馬鹿なのだろうか…でも信じたいかった。
玲二さんを。この優しい瞳を。
『れ…玲二さん。』
僕が玲二さんの名前を呼ぶと本当に明るい笑みを浮かべて僕を見つめる。その瞳に引き込まれてしまいそうだった。見つめ合っていた顔が少しずつ近づいてくるのが分かって僕は目を瞑ってしまった。
ちゅ……
軽く触れるだけのキス
戸惑う気持ちよりも心臓の奥をくすぶる熱の大きさを感じる。
『優希…。俺と一緒に暮らそうな。』
甘い甘い声が抱きしめられた僕の頭上から聞こえるのがとても落ちつく。
僕は迷うことなく応えた。
『はい。玲二さん…』
僕はこの人とならいきる意味が分かるのかもしれない、と思った。
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