その他


□直江♀
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◆スノドロ主IN直江(♀)
 ※現代→戦国♂→現代♀



出会いは、最悪。始終睨みつけるような彼の視線に……最初はたじろいでばかりだった。
それがいつからか、僅かな表情の変化も分かるぐらいの仲となった。
友達かと聞かれたら多分それが一番近くて、一番怖い言葉だと思う。
敵でも好敵手でも無い。仲間であって友。
国すらも違う者同士の会合は日ノ本を東西に分けての戦に向けてのもので、当然その末路はどちらかの死あるのみだった。
彼等がその後どうなったのかは知らない。俺、は早々にその舞台を降りてしまっているから分かる筈も無い。


固まっていた私の目と、三成殿――石田三成の目があう。揺れる瞳にはきっと私意外ならば分からないぐらいに薄い膜が張っていて。
彼が、泣いている。俺が貫かれて死ぬ時と同じように、はっきりと…泣いている。
伸ばされた手はそのまま固まっている私の手を掴んで、引き寄せようとする。

『みっ、石田君……?!』

三成殿、と言いかけて慌てて言い直す。
彼は私の腕を抱き込むようにしてまた机に寝そべった。椅子に座る彼の隣で私はしゃがんだまま腕を引き抜こうとしたが徒労に終わる。

「……な、…おえ…」

瞼を閉じた三成殿の口から途切れ途切れに呼ばれるのは、私……否、俺の名前で。
その頬をぽろぽろと静かに伝うのは確かに透明な、涙で。
謝るかのように何度も何度も名を呼ぶ。すまない、と涙を流す。
子供のように純粋に、ただ誰かを想って流す涙は美しい。
けれど、三成殿がこのように泣くのが自分のせいだと思うと少し、ほんの少しだが罪悪感なるものが湧く。
すぐ傍に居ながら黙っている事に対してなのか、先に死んだ事に対してなのか……どちらへのものかは分からないが。(もしくは、両方か。)

『………すまない、』

聞こえないように出来るだけ小声でそう言いながら、馴染み深い姿より幾分か幼い印象を受ける彼の頭へと手を伸ばす。
相変わらずどうなっているか分からない髪型だが、するするとした指通りはあの頃と変わらない。

今この場所が教室という空間で無くて、畳と襖に囲まれた部屋だったら。
私がちゃんと俺という男で、俺も彼も青年であったら。
それこそ、あの時と同じできっと何一つ変わらない。
例えば場所を移動したとして、和室に行けば限りなく近い環境は作れても…私はもう、あの時と同じには慣れない。
変わってしまっているのは、私で。
三成殿は変わっていない。時は流れようと皆変わる事は無い。信念が覚悟が、消えようと彼等の“生きる姿”は歪む事が無い。

ぽろぽろと私の目からも引きずられるように涙が溢れた。
朝練の終了を告げるチャイムが鳴っても、この空間に人がやってくるまでは暫くの時間がある。
見られたくは無い、と必死に涙をあいている手で拭っても、それは止まることが無い。
三成殿の腕を掴む力がだんだんと強くなって、その顔を見れば目を、開けて。


「…………かね…つ、ぐ」


(違うよ、)

不意打ちで、反則で。
たった一言。その否定の言葉が私の口からは出なかった。
ただ口から洩れたのは嗚咽だけ。顔を逸らして逃げようとした。
でも腕が離れなくて、起きあがり椅子から立った彼に引っ張られて自分も立つ事になる。
俺の時よりもさらについた身長差から見上げる姿勢をとれ、ば………困った様に笑う三成殿が居た。

「……や、っ…と……」

掴まれたままの手首からあがる悲鳴よりも何よりも。
ただその三成殿の悲痛に染まった一言が私の胸をどうしようもなく痛めつけた。
どうして、三成殿は――…


(そんなに、俺を……“直江兼続”を探すのだろう)




12.4.4
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