その他


□ショタ直江と学生三成
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「どうした、難しい顔をしてるなぁ」

知らず知らずのうちに眉間にしわが寄っていたのか、声に反応して振り返ると同時にぐりぐりと指の腹で伸ばされた。
いきなりやられると驚くし、何処まで見ているんだと毎度思うがこれももう慣れた。
外見だけなら片手で数えられる歳の俺も、その歳月で適応したんだと思う。
排除されるとか、そういうのは嫌だ。
何故自身がこのような幼き姿なのかは分からないが……先日あった吉継殿は俺よりも年上だったのだし。

『……要らぬ事を思い出した』

吉継殿達は何故俺と年齢が離れた?死に逝くのは俺が先だったというのに、どうしてこうも差異が生じる。
そしてそこまで考えると同時に先日吉継殿と共に会った男の事を思い出す。
顔はよく思いだせないが銀の髪をした男だった。
名前は………なんだったか。興味が無いものはすぐに忘れてしまうのは悪い癖だと思う。
なおそうにもなおせないから困ったものなんだが。

「?良く分からんが悩みこむとはどうした?相談なら聞くぞ?」
『だからと言って、この姿勢はなんだ』
「いや、まだまだ小さいものだと実感してな」

真剣に考え込む様子の俺を、俺の“兄”―――徳川は胡坐をかいた上に座らす。
体格差があるせいで妙にしっくりくるこの位置は何も初めてでは無い。
髪色はともかく良く見ると若干兄弟なのに目色が違うが…こちらでは俺と徳川は紛れも無く兄弟。
血を分けた者同士というのは分かっている。弟が出来たと聞いた瞬間の徳川の喜び様も良く覚えている。
残念ながら、弟は元西軍だったが。

『小さいうちは花とも言うが動きにくくて敵わない。父母の迷惑になっては困るから口調もこうは中々出来ないしな』

知り合いの前以外では使えないが同じ保育園などにそのような人間は居ない。
だから家の、しかも父母の見ていないところでしかこうして徳川とも話す事は出来ない。
すぐに俺が元西軍のあれだと気付いた時には徳川はまあ、それはそれは困った様に憎くないのかと聞いてきたのだが。
一体憎んで何になる。こちらで徳川を殺して俺に何の利がある?正直徳川を埋没して捕まるのは俺だ。不利益は望まない。
だから、憎くも無いし別に何でも良いと今では思っている。
父母の前では“お兄ちゃん”と呼んで、その度に内心では罪を覚えていろとは思うが。

俺が徳川とお兄ちゃんと呼ぶ度に、間接的とはいえ殺してしまった相手の事を悔めばいい。
顔も知らぬ何百もの人が死んだ中にいた俺の事でも考えればいい。
恨んでも、憎んでも居ない。だからこそ、徳川は何もしなくていいのだから………と、口には出さないが思いつつも兄弟仲は良好な方と思われる。

「なに。困ったならワシを呼べばいい!」
『……なら、徳川。吉継殿の事の相談だが構わないか?』
「?会った事、あるのか?」
『先日図書館前で遭遇した。いや、正確には銀髪の男に捕まったのだが』
「銀髪…?三成のことか?」

三成?と首を傾げながらそうか、確かそんな名前だったなと一応首を縦に振る。
しかし徳川は「それで、どうしたのだ」と少し不安そうな顔で続きを促す。
なんだ、三成?だったか、そいつは徳川にとって大切な人間だったのか?
正直分からないが知る気も無い。悲しそうな目と顔はもう見慣れたものだ。

『その三成とやらが俺に向かって“私が分からないのか”とうるさい。記憶が無いのかと聞かれたがあるがお前は知らないと帰ってきた』
「…………知らない?」
『ああ。徳川は学校が同じで面識があるだろうが前世でも会った事があるのか?吉継殿と一緒に居たから西軍なのかもしれないがすまない。よく分からなくて困っているのだ』
「……分からないし知らないのか…」

悲しそうな顔のままに徳川は俺の頭をゆっくりと優しい手付きで撫でる。
それは家族に対する愛情そのもので、向けられるのは慣れているからそのまま享受する。
しかし、やはり俺にはあの男の事が気がかりでまた眉間にしわを寄せてしまう。

「あいつは三成。ワシがこの手で――――…」

徳川の絞り出すかのように紡がれたその一言の意味を理解しても、俺には納得出来なかった。
あの男は何だ。
俺にとっての、なんだったのか。
縋る様な眼の意味すら理解する事が出来なかった。





2012.5.13
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