その他


□ショタ直江と学生三成
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刑部が直江の携帯へと連絡を入れれば、すぐにまた会えるという返信が来たらしい。
こっそり私もそれについていき、2人の会話を聞いているのだが――しっかりと、直江は刑部の事を分かっている。
ただ、時々分からないと言った風に首を傾げるがそれは全て私に関するものばかりで。
直江の中から私がすっかり消えてしまっているというのは嫌でも理解できた。


「――直江、主には我と共通の友人がおったのだがなァ」
『?、元就殿であれば面識はあるが連絡先は知らぬぞ?』
「何、そ奴ではない。第一同胞であるだけであり友人などといったものでは無かろう」
『そういうものか。で、それならば誰だと言うのだ』

不機嫌という訳では無いのだろうが勿体ぶった刑部の喋りに眉間に僅かだが皺を寄せる直江。
幼い姿とはあまりに不釣り合いな表情だが、中身が中身なだけにそれを知っている身としては違和感が少ない。
殺していた気配を少しずつ元に戻し、刑部の傍へと立てば直江は目を見開くが。
そして次の瞬間、刑部の方を向きこれでもかという程に鋭い目を向ける。

『謀ったか?』

幼子特有の大きな瞳は細められる事で剣呑さを含み、射殺さんばかりだ。
しかしそれでも刑部は怯む事も無く、飄々とした様子で言葉を続ける。
人聞きの悪い、と笑うあたりから多分全て刑部の提案というのはばれているのだろうが。
流石に直江はそこまで愚かな阿保でも無い。
私ですら恐らく、智では敵わないと嫌でも分かる位には、その頭の中は打算に塗れている。

「石田三成…こやつがその友人だったのだが、主には記憶が無くなっている。断片的に、なかろう?当てはまるべき人間は、こやつだ」
『…………石田、三成?俺とこの人が友人だったと申すか』

刑部の言葉にも冷静に対処する姿はやはり姿とは釣り合わない。
毒の含まれたかのような台詞に思わず繕わないのかと目を見開けば、直江は此方を向き『既に聞かれているのなら必要は無いだろう?』と心を読んだかの如く告げる。
その顔は不機嫌を露わにしている為に何も私は言えぬ立ちつくしているが。

「先程から時々言葉に詰まっておったろう?そこに当てはめるべきはこの人間よ」
『西軍の大将と先程言っていたな。しかし、分からない限りは他人だろう?』
「……主は随分と、傷つける言葉を吐くのだな」
『知らぬものを知っているふりをしたほうが酷いと思うが?』

淡々とした口調の直江に、思わず信じられなくなった。
戦前の直江は確かにこんな風に棘のある言葉をつかうのは普通だった。
しかし、平常時はもっと柔らかな口調で喋り、笑い、心配りをしていた筈。
けれど目の前に居るのは確かに“直江兼続”という男で、私を知らぬ以外は何も変わらない。
ただ短くなった手足と精一杯に動かしながら、椅子から降り刑部へと向き直る。

『俺はそろそろ帰る。遅くなると心配されるからな』
「……気をつけるが良い」
『言われなくても』

じゃあ、と背を向けた直江に思わず、本当に私は思わず…「裏切るのか」と口にしてしまった。
ピタッと足を止め、嫌にゆっくりとした動作で振り返った直江の顔は―――歪められていた。
心外だと言わんばかりに、そして同時に蔑むかのような目で、直江は私を見る。

『知らぬ相手に、裏切るも何も無い』

俺は石田だったか?お前を知らない。だから、裏切る筈が無いだろ。

それだけを告げて今度こそ直江は背を向けてその場から立ち去った。
残された私を見る刑部の目は心配そうな色を含んでいたが、正直、それどころでは無い。
ただ、“悲しい”という感情が胸のうちをぐるぐると渦巻いていたのだから。
何故、私を忘れた。それが、私への罪なのか?
そうとすら思える程に、柄にも無くショックをうけていた。

何故、と。





2012.5.4
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