短編-よみきり

□太陽の祝福
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カタカタと小さく揺れ動きながら、汽車は規則正しく乗客を運ぶ。
行き先は緑溢れるあたたかなリゼンブール。
金の髪と瞳が月のように綺麗な兄弟の大切な故郷。

明るく輝く太陽は、窓から見える景色全てを優しく包み込んでいた。
まるで二人の帰りを祝福するように。
大きな鎧姿では狭かった車内も、アルフォンスの身体が元に戻った今ではとても広く感じる。

「アル身体は大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「辛かったらオレに寄り掛かっていいからな」

時間はお昼より少し前。
アルフォンスの右隣には、弟を気遣うかのようにエドワードが座っていた。

「大丈夫だってば。心配症だなぁ兄さんは」
「なんだよ。仕方ないだろー」

茶化しながらも幸せそうに顔をほころばせるアルフォンスにエドワードも自然と口元が緩む。
アルフォンスがいくら大丈夫だと言っても、その身体は何度見ても頼りなくて、エドワードの心配事は絶えない。
退院したばかりの長旅はよけいにエドワードを過保護にさせた。

「……ねえ兄さん」

「なんだ?」

先程まで笑顔だったアルフォンスが急に真剣な表情でエドワードを見つめる。
しかしエドワードはそれに気付かない。
何でもない話をするかのように、軽く聞き返した。

「昨日の夜さ…」
「ん?」

そこでアルフォンスは言い淀んでしまう。
言葉が喉の奥に引っかかって出てこない。
聞きたいことがあるのに言えない、もどかしさ。

「昨日の夜がどうした?アル?」

なかなか言おうとしないアルフォンスの顔を覗き込みエドワードは訊ねた。
何か自分には言いづらいことなのだろうか?
時として驚くほど頑固になるアルフォンスだ、言おうとしていることはきちんと受け止めてやりたいと思った。

「……」
「どうした?」

「…ううん。なんでもない。昨日は一緒に寝てくれてありがとう兄さん。」

不自然な微笑み。
本当はそんなことが言いたいのではないということくらいエドワードにだって分かる。
今言ったことも本当なのだろうが、アルフォンスが自分に聞きたいことは別にあるのだろう。
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