とある独善主義者の独白
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「……っ!!?」
「あ、目が覚めたか?」
「シキ!え、あれ、夕べ。てゆーか、服が……」
「ヤってる途中で気を失ってたから、介抱してあげただけだ。そんな非難がましい目で見るな」
「ヤ、ヤってるって……?何を?」
「何って、決まってるだろう?」
「や、やめてくれ。聞きたくない!!」
ベッドの上でそんな会話を繰り広げていると、アイフォンが着信を知らせる。
この音楽は高校の元チームメイトだ。
シーツで顔を隠しているアレックスを横目に俺は電話に出た。
【おひさー!四輝!!】
「久しぶりだな。百合」
【相変わらず、イケボだねー】
「ありがとう」
【てか、今、大丈夫だった?電話して】
「問題ないよ。どうしたんだ?」
【今度、アメリカに行くんだけど案内してくれないかな?】
「デートの誘いか?」
【え、いーの!?わーい】
「ホテルも用意しとくよ。スイートルームでいいか?」
【ありがとー。四輝大好き】
「俺も、大好きだよ」
【じゃぁ、日程とかはおって連絡するね】
「あぁ、じゃぁ」
【ばいばーい】
相手が切ったことを確認してから、アイフォンを枕元に置く。
視線を走らせれば、白いシーツの隙間から俺と同じ青い瞳が覗いていた。
「女か?」
「あぁ、高校からの付き合いがある子だよ。名前はユリ=シノノメ。姉さんには劣るが器量もいいし、見目もいい、家柄に名前負けしない芯の通った良家のお嬢さんだ」
「そっか……」
不安げに揺れた瞳。
それも、一瞬で、シーツから顔を出したアレックスは笑顔で俺に言った。
「よかったな。デートできて」
「デートというよりは、不倫だな。夫公認の」
「は?」
驚いたような彼女の顔をすかさず写メる。
すぐに、ラインに送ってその画像は消した。
「おま、何してんだよ!!」
「安心しろ。家族専用のラインだ。早速、姉さんから返信が着てる。“やっぱアレックス可愛いね”、だとさ」
「うぁぁぁあ!?てゆーか、さっきのはどういうことだよ。不倫って」
やはり、気になるらしい。
シーツで再び赤く染まった顔を隠しながら、尋ねてくる。
「チームメイトのマネージャー、ユリのことな。そいつと副主将が結婚したんだ。その副主将はあんまり表情を出さないで、ユリのことばかり配慮してるから、自分の意思を持ってほしいと言うわけで同盟組んでるだけだ。何か勘違いしたのか?」
「……何でもねぇよ」
そっぽを向いた彼女。
拗ねたような表情に加虐心が煽られたが、時間だ。
「……そうか。部屋を出るときは、鍵しめてくれよ。ランニングに行って来る」
「わかった……」
アレックスに視線を向けることなく、俺はベッドルームを出た。
防音も完備されているマンションの最上階のこの部屋は広い。
いくら体格がよくても、一人で暮らすには広すぎる。
トレーニング用の服に着替えながら、そう思った。
アレックスがこうやって遊びに来ることは多い。
それでも、同じ部屋にいない限り、寂しさを感じる。
高校での一人暮らしには何も感じなかったのに。
やはり、一度望んでしまったものはそうそう諦めきれないらしい。
それでも、俺からは決して手を伸ばさない。
ただ、あいつが手の届く場所にはいるつもりだ。
あいつの想いにはまだ迷いがある。
だから、それまではぐらかす。
心の底から望んでくれたなら、あいつの言葉を遮って伝えよう。
Even if we become the silver hair because I give my family name to you,I want you to be near me.
あいつに、オヤジギャクが通じるか疑問だが。
まぁ、何にせよ、笑っていてくれればいい。例え、そこが、俺の傍でなかったとしても。
その向日葵のような笑顔で。