とある独善主義者の独白

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「優勝おめでとう!シキ」

「サンキュ。アレックス」
 

あれから、数年。姉が高校に入った。

変な感覚だけど。
 

俺は、NBAで何度目かの優勝を果たしていた。

ポジションは相変わらず、PG/SG。

チームメイトにばかり得点を決めさせずに、自分でも3Pを量産している。

今回はアレックスが観に来ていたことをからかわれ、そのせいで活躍しまくったんじゃないかと冷やかされた。

もちろん、高校時代同様に、穏便にことを済ませたけど。


「……馬子にも衣装だな」

「ん?何見て……、あ!?」
 

俺の手元を覗いたアレックスの顔が赤くなる。


成人誌?


生憎、俺はそういったものに興味はない。

実に、健全な雑誌だ。


「おまっ、シキ!これをいったい、どこで!?」

「さぁな。……もう少し、胸元隠してもいいんじゃないか?」

「どこ見てんだよ!!返せ!!」

「生憎、これは俺の私物だ。返せと言われる筋合いはない」
 

手元にある雑誌を奪おうとアレックスが手を伸ばすが、俺が立ち上がって腕を挙げれば、高さの問題で彼女が届く訳もなく。

羞恥で顔を赤らめながらも、俺の腕にしがみついて、雑誌を取ろうとするその姿が滑稽だった。


「子供みたいだな」

「お前がな!!」
 

素直に返してやれば、何か落ちてるもんでも食ったのかと心配された。

俺は、お前や火神大我じゃない。

それにしても、……以前、アレックスは友人の頼みでウェディングドレスのモデルをしていたらしい。

俺には一言もなかったのに。

アルバムには火神大我と氷室辰也とのスリーショットが載っていた。
 
ゼロが暇つぶしに、と送ってくれた雑誌は数年前のものだが、新品同様に綺麗だった。


「どうせ、私には似合ってないだろ」

「そうだな」

「…………だよな」
 

露出が多い。

普段から露出の多さには辟易していたが、記念に残す時にはもう少し、露出を控えめにした方がいい。

何故か項垂れているアレックスから雑誌を取り返し、ページをめくる。

真っ白い布に包まれて、微笑む金髪女子達。

これ、ほとんど未婚者だったらうけるな。


「どんなやつが好みなんだよ。シキは」

「姉さんなら、何でも似合う」

「……そりゃ、レイなら似合うだろうな。どんなドレスも」

「あまり露出はさせないがな」

「ほんとシスコンだよな。お前ら兄弟」

「姉さんも存外ブラコンだ。結婚相手は俺達が認めた相手でないとさせないが」

「おい」
 

実際に姉さんならどんな格好でも似合うだろう。

例え、タキシードであろうと。

それでも、姉には幸せになってほしい。

第2の人生を歩んでいるから、尚更。


そして、姉の友人であるアレックスにも幸せになってほしい。


「やっぱり、白無垢がよさそうだな。角隠し」

「つの……?レイには角があんのか!?」

「いっぺん、殴られたいか?」

「わ、いや、違うから。笑顔で椅子を振り上げるな!!」

「冗談だ」

「笑えねぇよ!!」
 

アレックスの無知さに呆れながらも、俺は姉が送ってくれた雑誌を見せた。

それは、和の結婚式という題。


「これのこと」

「……綺麗だな」
 

雑誌の中で白無垢に包まれ微笑む女。

その頭には角隠し。


「角隠しには“角を隠し、夫に従順に従う”という意味があるそうだ」

「日本人には角が生えてんのか!?」

「馬鹿か。……女は情念が強い性だという風習があったからじゃないか?嫉妬深いのは決まって女だとかいう説もあるしな」

「いや、お前も十分嫉妬深いだろ。レイに対してのみ」

「当然だ。それだけ、姉さんは魅力的だからな」

「ごちそうさま」
 

呆れ顔のアレックスを横目に、俺は今日の試合後を思い出した。


会場の外で俺の帰りを待つアレックスに声をかけていた暇人。

よくこんながさつな女をひっかけようと思ったな。

しばらく観ていると、男達は彼女の腕を掴んで連れて行こうとし始めた。

ここで初めて彼女は物理的に抵抗した。

腕を掴んだ男を蹴り飛ばしたのだった。

それにびびった男達はのびた男を引きずって逃げていった。

……ほんっと、がさつだな。
 

男が触れたのは確か右腕。

その白いソレを掴めば、筋肉がついた自分ものよりも断然細いことが分かる。



痣はない。

傷もない。

いたって普通。

正常だ。

なのに、気持ちが悪い。



「な、なんだよ」
 

動揺しているのが顔を見なくても伝わる。


「いや、汚い、と思ってな」
 

震えた腕。

いや、アレックス自体が震えた。


俺の手から逃れようと身をよじるが、それを赦す気のない俺は、掴む力を強めた。


「いっ、何がしたいんだよ!」

「消毒」

「は?……っ!?」
 

男が触れたであろう、彼女の手首に舌を這わせた。

自分でも何がしたいのか分かっていない。

ただ、身体が動く。


緊張でか、羞恥でか、彼女の身体が強張るのがわかる。


その方が、好都合。


腕を掴む力を緩めれば、俺の手の下から、赤くなった腕が覗いた。

手首からその赤くなった場所まで舌を移動させる。

その間、白い肌から離れることはない。
 

二人の息遣いと水音だけがこの部屋を満たす。
 

二の腕に舌が達した時、アレックスの力が抜けた。

その身体が床に倒れこむ前に、ソファに引き倒す。

丁度、俺に倒れこむように。


「な、何がしたいんだよ!!」

「腰が砕けたのか?」

「ちげぇよ!!」

「の割りに、随分と心音が速いな」
 

ソファに背を預けた俺の上にいる彼女の胸に耳を埋めれば、速く、大きい鼓動が鼓膜を震わせる。


「……っ」
 

顔を上げれば、真っ赤に染まったアレックスの顔があった。

俺と同じ、青い瞳は涙で潤んでいる。

姉とは対を成す色を好みはしないが、不思議とこれはこれで綺麗だと思えた。


「シキ!優勝おめで……」

「あぁ、お前達。合鍵を出して、着ている服で道路を掃き掃除してこい」
 

やってきたのはチームメイト達。

また、誰かが合鍵をつくって侵入してきたらしい。

あれほど、説教をしてやったのに堪えてなかったのか。

アイフォンを取り出し、991を押す。


「ぬぉぉぉおお!!?やめ、やめろ!」

「お、落ち着け、シキ!話せば分かる」

「つ、ついに付き合うことになったんだな!お、結婚までこぎつけたのか」

「は?何を言っているんだ?そんなわけないだろう?」

「え……」

「?アレックスまで、何を呆けているんだ。ちょっと、退け」

「あ、あぁ」
 

俺の上に乗っかるアレックスをソファに置いて、俺は不法侵入者であるチームメイトの前に立った。


「ほら、早く。掃除をしに行け」

「え、嫌、ちょっ」

「通報されたいのか?」

「変質者として通報されるだろーが!!」

「そうなることを望んでいるんだ。この俺が」

「鬼!悪魔!」

「何とでも言え。犯罪者」

「嫁さんと幸せになりやがれー!!」

「裏切りもんがぁぁあ!!」
 

そんな捨て台詞を吐いて出て行ったチームメイトは手土産であろうつまみや酒をご丁寧に置いていったのはいいが、合鍵だけは持って帰りやがった。

また、ジョンだろうな。

今度の練習でしばく。


「飲むか?」

「い、いや、いい」
 

目線を合わせようとしないアレックス。

特に気にすることなく、俺は手土産の一つであるDVDを手にした。

題名はなく、録画したものだろう。

プレイヤーに入れて、スタートさせれば、最初からクライマックスだった。


20禁ものの内容。


女優の喘ぎ声にアレックスが肩を震わせて、恐る恐るTVの画面を見遣る。

モザイクなしのそれに、彼女の顔はさっき以上に紅潮している。

相変わらず、がさつで、露出狂のくせに初心だな。


ノーマルだったプレイは徐々に、マニアックなものへと進んでいく。

顔が赤いまま微動だにせず、アレックスは画面から目をそらすことができないでいる。

DVDよりも観察していた方が楽しいな。

ちらりと、画面を見れば最初からいた女優とは別に参入した金髪の女はどことなくアレックスに似ている気がした。

あぁ、それでこのDVDを入れたのか。


「この女優、アレックスに似てるな」

「なっ……!」
 

俺の方を睨みつけるが、俺が微笑めば、アレックスはクッションに顔を埋めた。

それで視覚は遮れても、聴覚は研ぎ澄まされるだけだろう?

ソファに移動して、俺はアレックスの隣に座った。


大きく震えた華奢な肩。


でも、それだけで、顔を上げようとはしない。

もって来たリモコンで少し、音量を大きくする。

絶頂した女の声が部屋に響いた。


「っ……」
 

その声に再び身体を震わせたアレックス。

その耳は真っ赤だ。

赤いそこに口を持って行き、そっと囁いた。


「アレックスに似た女優が潮噴いた」
 

耳にかかった息にか、その内容にか。アレックスは耐え切れないというように、耳を塞ごうとする。

それを赦すはずもなく、両腕を掴んだ。

抵抗しようとする彼女に再び囁きかける。


「今度は、自分からねだってる。咥えているから、自分で腰ゆらして、いれてほしいって。あ、顔にかけられた。いれてもないのに、顔射だけでイってる。二輪挿しするみたいだ。嫌がってるふりして、喜んでる。淫乱だな、この子」
 

女の嬌声が響いた。

それと同時に床に倒れこみそうになるアレックスの身体。


「気失ってるだけか」
 

真っ赤な顔は瞼を閉じているだけで、息はしている。

クッションは涙で、ところどころ色が濃くなっている。

興奮していたせいか、かいている汗がすごい。

これは風邪ひくな。
 

軽くも重くもない身体を抱え、俺はシャワー室へと向かった。

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