とある独善主義者の独白
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高校はバスケで全国最強と呼ばれる言われる洛山に転入し、主将になって、二年連続三冠を達成した。
その後、再び渡米した。
表向きな目的はNBAに入るため。
本当の目的は姉の死を信じて疑わない女が、どこまで堕ちたか見届けるために。
過酷な練習日が続いたが、最初の休日は初めて女と会った賭けバスケのコートに向かった。
そこで、冥い瞳の女を見かけることはなく、その帰り道に、揺れる金髪を見かけた。
二人の子供に囲まれて、
複雑そうな、
辛そうな、
それでも、
嬉しそうな表情をしているガルシアに。
いつか、弟達のゲームをしたストバスのコートに、アレクサンドラ=ガルシアはいた。
「アレックス、今度はあれやってくれよ。指でボール回すやつ!」
「タイガはいつもそれだよな」
「タツヤは何かリクエストな無いのか?」
仲がよさそうな雰囲気に俺は、ガルシアに声をかけることなく、背を向けた。
そして、いつかの食堂で、いい豆を使っていないブラックを頼む。
すぐにもって来られたそれは相変わらずの味で。
ブラックが好きで、飲みなれているはずなのに、酷く苦く感じた。
ガルシア達の姿は、いつかの俺達に似ていた。
姉にバスケを教えてほしいとせがむ俺達のようで。
生きていてくれて嬉しかったのに、ほとんど姉に会うことはなくて。
バスケを道具として扱っていた自分が後ろめたかったから。
ガルシアも苦しんでいてくれていると思っていたのに。
なのに……。
あいつは、苦しまずにいられる人生へと歩みを進めていた。
「やっぱり、シキだったか!!」
懐かしい声に振り返れば、昔より生き生きとした表情のガルシアがいた。
女らしさの欠片もない大声でハンバーグを注文した彼女は俺の向かい側に座る。
いつかのテーブルと同じ席。
「久しぶり」
「あぁ」
「お前、超有名株なんだろ?」
「どうだかな」
そっけない俺の態度を気にすることなく、ガルシアは自分の話を進めた。
「最近さ、弟子ができたんだ。タツヤとタイガっていう子達なんだけど、結構、筋がよくてさ。教え甲斐があるんだ」
「そうか」
「二人とも日本人で、仕事の都合でアメリカにいるんだけど、もしかしたら、お前達の後輩になるかもしれないぜ」
「……ストーカーか」
“お前”の後輩と言えばNBAのことだと示すが、ガルシアが言ったのは“お前達”。
とどのつまり、俺達兄弟のことだ。
「『シンセイノサンコウ』で、『キンウ』かー」
『新星の三皇』は俺達三兄弟を示し、『金鳥』なんていう異名が俺につけられている。
「『The three great kings of novas』なんて、ちょっと大げさだな。『The sun』ってのは、一番お前に合ってねぇし」
「世間が勝手に言っていることだ」
「でも、バスケしてるお前が『The sun』っていうのは強ち間違いでもないな」
訳が分からない。
最初に合ってないと言われてから、合っていると言われても説得力がない。
「タツヤがさ、お前の試合見たんだってよ。動画サイトでだったけど、感動して、バスケ始めたって言っててさ、私も見たんだよ」
感動……?
バスケを道具としか思ってない俺のプレイに?
「賭けバスケのときは無茶苦茶だったけど、高校での試合はなかなか良かったぜ」
違う……。
俺は確かに、バスケを道具として扱っていた。
……アメリカでは。
それでも、俺は後ろめたさを感じながらも、バスケを続けた。
何故だ?
「PG/SGなんてそうそうできるもんじゃないし、何より、『The sun』って評されるのがぴったりなぐらい味方を勝利へと導いていたしな」
辞める機会なんていつでもあった。
勉強を理由に逃げることもできた。
なのに、今もバスケをしているいる何故だ。
「主将で、エースまでやって」
重役を任されて、俺は何を感じていた?
責任と満足感を、
喜びと充足感を感じてはいなかったか?
何故だ?
「すげぇ、かっこよかったぜ」
「…………」
繋がっていたかったんだ。
バスケで、
チームメイトと、
家族と、
姉と、
まだ見ぬ誰かと、
こいつと。
罪悪感の中で、俺は常に繋がりを欲していた。
いつか断たれることを知りながらも。
いずれ断たれることを恐れながらも。
常に、誰かと繋がっていたかったんだ。
「サンキュ……」
ぼそっと呟いた言の葉は確かに、目の前の女に届いていたようだ。
びっくりしたような顔で俺を見て、その後にっこりと笑った。
「おう!」
可憐な花のように笑う姉とは似ても似つかない、太陽を見つめ続けると言う向日葵のような笑顔で。