心と秋の空
□13.充:傘
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「リョータ。お前、最近女と縁切ってるとかどういう心境の変化だよ」
「ショーゴ君。………バスケ部入ったんで、女に興味なくなっただけっスよ」
「はっ。バスケが恋人です、ってか?」
「用事はそんだけっスか?」
「…お前、空ちゃんのこと好きってマジ?」
「…てめーには関係ねぇだろ」
「図星かよ…。てか、ムリだろ。お前の評価とか、どん底なわけだし。いまさら、女関係清算しようと無駄な足掻きだろ?ま、お前がくっついても、俺が奪うだけだけどな」
「てんめっ」
俺はここが体育館の出入り口だということを忘れて、灰崎に掴みかかった。
そんな俺たちを見た青峰っち達が止めにくるけど、それよりも俺がコイツを殴る方が速い。
「っ…!」
俺と灰崎が目を見開いた。
確かに俺は何かを殴った。
だけど、それは灰崎の横っ面じゃなくて。
「レイ!」
「銀さん!!」
灰崎に飛び掛って、俺の拳の軌道を自分のほうに向けた銀レイの頬は赤く腫れていた。
唇の端からは血が出ていて、口の中が切れていることが一目で分かる。
やってきた黒子っちと赤司っちが倒れこんで起き上がろうとしている銀レイに駆け寄る。
青峰っちと緑間っちは俺に殴りかかろうとする灰崎を止めて、紫原っちは俺を取り押さえてる。
「祥吾、落ち着け」
「……っ」
銀レイの声に、灰崎は渋々ながら従い、赤くなったその頬に手を添えていた。
その時は、銀レイが俺にも灰崎にもペナルティが来ないようにしてくれたらしいけど、主将と緑間っち達からの説教はあった。
その時、秋野先輩がクラスの用事でいなかったことに救われたと思った自分もいて、吐き気がした。
しばらく、銀レイは部活に顔を見せなかったけど、きっと先輩は知ってんだろうな。
銀と仲いいし。
俺のことサイテーだとか思ってんだろうな。
灰崎と一悶着あった日からちょうど一週間。
その日は夕方から降水確率20%だったけど、姉に傘を持たされていた。
何か、緑間っちにも今日の双子座のラッキーアイテムは傘だとか言われてたっけ。
の割りに、担任に雑用頼まれてたんスけど!?
おは朝を恨みながらも、雨が窓を叩く音に濡れ鼠になって帰ることは免れたと思った。
まぁ、所詮、日ごろのラッキーとかこんなもんだろうな。
カバンをとって、靴箱へと向かう。
俺のクラスの靴箱は、三年の一部のクラスと同じ場所にあった。
スペース上の都合だとかなんとかで。
ほんとなら、雨も降らない中帰れたのにと思うと、担任に殺意が湧く。
あ、あの人、傘忘れたのかな?
昇降口の屋根の真下の見覚えのある後姿に、俺は胸の疼きを覚えた。
いや、あの人は…。
「先輩、傘忘れたんスか?」
思わず駆け寄って掴んだ腕。
先輩の視線と俺のそれが重なった。
久しぶりな気がする。
先輩の驚いたような表情を見るのは。
…って、近っ!!?
慌てて距離をとると。
そこで初めて先輩の顔が赤くなる。
やばい。
目線も俺からそらして、右手で口元を覆ってる。
その後、こくんって頷いて、……可愛い。
「そうっスか。俺の傘に入って帰りましょ。女の子なんだから、風邪引いちゃダメっスよ」
できるだけ恐がらせないように、極力優しく声をかけた。
俺の二度目の質問にも、小首を縦に動かして了承の意を示してくれる。
何なんだろう、この生き物。
想いを自覚してからは、先輩が別人に見えてくる。
いや、前から可愛かったんだけども…。
そっと寄せた肩は思ったよりも華奢で。
傘を開いて、先輩とその中に入って、屋根の外へと出た。