心と秋の空

□12.充:仁
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練習試合当日。
 


自分も一瞬いたけど…、改めて見ると、二軍だけでも数いるなー。

けど…、その先頭の一軍レギュラーが一番弱そーってどーよ!?

 
相手校に向かう道中で後ろに並ぶ二軍メンバーを振り返りながら、俺は名案を思いついた。


「黒子クン。一つ提案なんスけど…」

「なんですか?」

「この試合、もし俺ら二人出ることになったら、どっちが点多く取れるか勝負しねっスか?もし、俺が勝ったら、そのユニフォーム下さい」
 

どうせ、こいつは点取れないんだし、俺が少し早めにレギュラーなるだけでしょ。


「嫌です。けど…、もし負けたら勝敗はどうするんですか?」

「そりゃぁ、それでも点を…。嫌ですけど!?」

「というか無意味です」

「!?」
 

は?

どんだけ、レギュラーでいたいんだよ。

才能無いくせに。


「ガラではないですが、教育係になった以上、一言言わせて下さい。チームで大事なのは自分が何をすべきか考えることです」
 

何をすべきか…?


「でも、その負けん気は買いだと思います」

 






試合中で、俺と黒子クンはベンチ。

二軍の選手達が頑張ってはいるけど…。


「てか、先輩。ここ本当に強豪校なんスか?」

「そうだよ。駒木中はインサイドが強いとこなんだけど…、練習試合だからちょぉっとおイタがすぎるかな?」

「…明らかにラフプレーっスよね」
 

観客席から野次が飛ぶ。

相手選手は帝光選手に当たりが強く、笛が鳴ってもおかしくないプレーばかり。

しかし、その笛を鳴らさなければならないレフェリーは相手校の部員。


「まぁ、練習試合申し込むときから何か企んでそうだったけど、こっちからレフェリーするって言ったら難癖つけてきたんだよねー。まぁ、ラフプレーをしても負けちゃうってのが分かんないみたいだけどね」

 
帝光48―駒木69。
 
点差は21点。


「これから逆転できるんスか?」
 

先輩の発言を思わず疑ってしまった。

かなりでかい点差に今から追いつけるのか。

このメンバーで。


「そのために、黄瀬君と黒子君がいるんでしょ?」
 

先輩からの信頼。

それが彼女の力強い眼差しから汲み取れた。


「黄瀬君、真面目に試合見ててください」

「うおぉ!?」
 

先輩の瞳に見とれていると、隣から肩を叩かれる。

誰もいないと思っていたのに、黒子クンがいた。


「というか、そろそろ出番かもね。黄瀬君」
 

にっこり笑った先輩が目配せすると、二軍のコーチが俺の肩を叩いた。


「…黄瀬」
 

その一言で充分だ。
 


脱いだシャツを先輩に預け、俺はコートの上に立った。

ベンチでは微笑んでいる先輩。
 


ぜってー勝つ!
 


と、意気込んでみたものの、ボールを持った途端、相手チームの当たりの強さを実感した。

明らかにファウルものだ。

経験が浅い俺でもわかるあからさまなそれをレフェリーは傍観しているだけ。
 
無理やりにでも抜こうとすれば、笛が鳴った。


「オフェンスチャージング!!」
 

っこのっ…。

こっちにはまたキビシイっスね。

クソ!
 

何とか点を決めるも、ファウルをさらに2回とられた。

5回とられたら、退場。

しかも、いいとこ全然ないし。


 
帝光61―駒木75。
 


やっべ、点差縮まんねー。

こんなセコいカンジで負けるなんて…。

いやすぎっス。
 

ビーッ。
 

鳴ったブザー。

まだ、セットが終わる時間じゃない。

なら、なんで。



[帝光選手交代です」



帝光ベンチからは、黒子クンが現れた。

相手側の観客席からは、彼に対する野次が飛ぶ。

それを気にも留めず、彼は俺に近づいた。


「すみません。力を貸してください」

「いや…俺!?逆じゃねんっスか?」

「僕は影だ。点を獲る光は黄瀬君です」
 

なんかカッコイイこと言ってるけど、ウスいだけの人が何できるんスか。

マジで!
 

でも、一軍レギュラーだし…、と期待した俺はチラっと、黒子クンの方を見た。
 


ポツー…ン。
 


うおおい!

てゆーか、DFの眼中にも入ってねぇじゃん!!


 
完全にどフリーな黒子クンは、俺以外の見方の眼中にも入ってなかった。

こんなんで、どうするって…。
 


バチィッ。

 
コートが、体育館が沈黙に包まれた。

ついで、驚きの声があちこちから沸き起こる。

俺の手にはボール。

それをパスしたのは…、黒子、クン?


「黄瀬君!」
 

先輩に名を呼ばれて、俺は未だ動揺しているDFのゆるいマークをふりきって、レイアップを決めた。
 
まさかカゲのうすさを逆に利用して、パスの中継役に…!?



って…。そんなのアリか!?



「ボールから目を離さないで下さい。点差が点差なんで、本気でいきます」

 

先輩の瞳が、黒子クンの瞳が語っていた。





この試合は帝光の勝ちだと。
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