心と秋の空

□11.充:位地
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中二の春。
 

それまでくすぶっていた俺…黄瀬涼太は、バスケ部に入部した。

超強豪らしいけど、2週間で一軍に昇格。

まあ当然、俺だし。

今日で一軍練習に合流して2日目。

一軍となると、さすが別格。

ここでレギュラーになるにはさすがに少しかかるかも。
 

体育館で練習に励む選手達を見て、そう思わずにはいられなかった。



「オス」

二年エース、青峰大輝。
 
俺がバスケ始めるきっかけになった人。

バスケ超うめーけど、やけに黒い。
 

二年シューター、緑間真太郎。
 
シュート超入るけど、いつも謎の小物持ってる変人。
よく語尾に『なのだよ』って付くけど、それなんなのだよ。
 

あと二人、すげぇ人いるらしいけど、まだ話してない。

その四人は『キセキの世代』って呼ばれてるらしい。
 

二年とは言え、途中入部だから一年と同じ扱い。

一軍にも雑務はある。
 
そんな俺に教育係がついた。


「黄瀬君。スコアボード出し忘れています」
 

てゆーか、なんで?

ってカンジ。だって…。

後ろを振り返って、その声の主を探しても、俺の両の目がその姿を捉えることはない。


「こっちです」
 

まさかの目の前。

バスケ部にしては華奢で、小柄な同学年の男子。
 

コイツがそう。

ウスい。

しかも、一軍レギュラー。

バカな。

しかもコイツ『キセキの世代』幻の6人目と呼ばれているらしい。

バカな。


そして、もう一つバカなことがあった。

俺とそりがあわない、あの男装モデルがバスケ部の一軍マネージャーだということ。

バカな。

いや、お前ムリだろ。

マネジメントできねーだろ。

天上天下唯我独尊だろ。

とか、バカにしてたら、まさかのハイスペック。

しかも、マネージャーなのに、コーチにも普通に意見するとか何様だよ。

俺との関係は相変わらず険悪だけど、私情を持ち込むことなく、仕事をこなしている。

バカな。

しかも、先輩と異常に仲がいい。

むしろ、後輩のくせして先輩に指図している。

バカな。

しかも、先輩と一緒に住んでいる、らしい。

バカな。

まさか、そういう関係?

いや、でも、男装モデルっていうんだから、そういう趣味が…。


「黒子君、あっちで桃井ちゃんが呼んでたよー」

「う、あ、はい」
 

声をかけられ、きょどる目の前のウスいやつ。

声をかけたのは先輩だった。

他のメンバーに聞くと、この影ウスいやつのことをすぐに見つけられるのは、この一軍でも片手の指で数えられるほどらしい。

その一人に先輩がいる。

そして、このウスいやつは先輩に声をかけられるのに未だ慣れてないらしい。

どんだけ影ウスい人生送ってたんだよ。


「今、行きます。わざわざありがとうございます」

「いーえ」
 

かちこちなウスいやつに微笑む先輩はスコアボードを一人で押していた。


「あ、すみません!」

「いーよ。ちょうど、手が空いてたし」
 

慣れたように、スコアボードを所定の場所におくと、首にかかっていたホイッスルを鳴らす。

それに気づいた部員達がミニゲームを始めていく。

マネージャーといっても、先輩も他のマネージャーとは違う仕事をしている。

部長が不在のときの部員の指揮や指導。

主に団体担当のまとめ役だ。


それと対照的なのが、俺の仇敵。

個人にアドバイスをして回っている男装モデル、銀レイだ。


もう一人のマネージャーである巨乳っ子は、諜報や研究担当だそうで、選手の動きをよく観察している。

ただ、いくら可愛くても彼女にドリンクを作らせてはならないらしい。


普段飲んでいるのは先輩のつくってくれたものらしく、ちょうどいい濃さと温度で部員からも好評。

もちろん、俺も先輩のつくってくれるドリンクが好き。


「頑張ってね。黄瀬君」

「はい!」
 

俺の視線に気づいたのか、先輩がニッコリ笑ってくれた。

元気よく答えた俺は、すぐさまコートに入れるようにストレッチを始める。


「黄瀬。お前、この次のゲームだからな」
 

青峰っちに肩を叩かれた。

その顔は今にも笑いそうなのを堪えているような…。

あちこちで聞こえる小さな笑い声が聞こえた。

まわりを見渡せば、あちこちで笑ってる部員がいる。

秋野先輩までも笑ってるし。

…あー、恥ずかしい。


「ま、早めにストレッチしてんのもいいんじゃね?」

「笑いたきゃ笑えよー!」

「ぶっは」

「うわ、唾飛んだ!」

「だって、おまっ、ぶふぉっ」

「あっち向いて笑えって。俺、あんたの唾まみれになんだけど!!」
 

よりいっそう体育館の笑いが大きくなった。
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