心と秋の空
□11.従:位地
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好奇、疑念、不快。
一週間ぶりの学校で感じる視線は決して心地のいいものではなかった。
だけど、一週間前よりはだいぶ緩和されたている。それもこれも隣を歩く人のおかげ。
「俺はこっちだから。何かあったらメールしろよ」
「うん。また、お昼休みにね」
「あぁ。またな」
穏やかで、暖かく、見守ってくれるような夕方色の、紅色の瞳が向けられた。
銀レイ。
私を助けてくれて、
私を認めてくれて、
私を受け入れてくれた同性であり、後輩。
彼女はこの一週間、ほとんど初対面である私を泊めてくれた。
ある意味保護に近い形で。
事実、あの事件でレイといるときは落ち着いていたものの、先生へ事情を話す時はレイの手を握っていないと平静を保つことができなかった。
まるで一目ぼれで恋に落ちたかのように、私はレイに一目で依存してしまったようだった。
自宅に帰っても居場所のない私を快く受け入れてくれたレイも一緒に一週間を過ごしてくれた。
仕事でいないときもあったけれど、仕事の合間に電話をしてくれたからすごく安心できた。あいにく、レイのお兄さんは仕事で家にいなかったから、お礼は後日ということになったけど。
私が教室につけば、しぃぃぃんと静まり返るクラスメイト達。
その視線は廊下ですれ違った生徒達と同じもので…。
あまり団体行動を好まないレイとのツーショットでの登校はかなり多くの生徒から注目を集め、黄瀬君との一件とは別の奇異な視線が増えた。
それもそのはず。
レイと黄瀬君は同じ事務所のモデルであっても、不仲ということが周知なのだから。
このことはレイに聞いたことだけど、互いに苦手意識が強いらしく、仕事でも学校でも極力干渉しあわないらしい。
一週間前まで黄瀬君との噂が絶えなかった私がその黄瀬君と不仲のレイと一緒にいるんだからふつうは驚くよね。
「秋野さん。銀くんとどういう関係?」
好奇の眼差し。
あまり接したことのない、形だけのクラスメイトが私に声をかけていた。
他のクラスメイトも興味津々といったていで、私を視る。
男装モデルをしていて、その容姿が中性的なため、性別が女子であっても“くん”付けで呼ばれることの多いレイ。
そう呼ぶ人の多くはレイのファン。
誰にでもフレンドリーと名高い(らしい)黄瀬君とは対照的に、レイは近寄りがたい雰囲気を放っているから黄色い声で騒ぐファンは少ない。
「友達だけど…?」
そう呟けば、軽くざわめく教室内。
先週の一件よりも、彼女達はレイと共に登校してきたことのほうに興味を誘われたらしい。
先週まで私を阻害していたのに、なんていう変わり身の早さだろう。
そのことを少し腹ただしく思いながら、私はカバンの中から教科書を出して、一時間目の授業に備える。
その私の行動を癇に障ったと勘違いしたらしいクラスメイトが慌てて弁解した。
「あ、…秋野さんって、黄瀬君と付き合ってなかったのに、あんな噂に惑わされて、ごめんね!」
顔の前で手を合わせて申し訳なさそうにするクラスメイト。
その瞳はあくまで好奇心に満ちていて、謝罪も罪悪感も何も映っていなかった。
それは他のクラスメイトも同じ。
ただただ彼女達は“レイと一緒に登校した私”に興味があるだけ。
“私”という単体に興味があるわけではない。
「別にいいよ。そろそろ授業始まっちゃうよ」
「え、あ、うん。また、後でね!」
“後で”なんてないよ。