心と秋の空
□10.従
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最近人気の出てきたモデルである“黄瀬涼太”君は、彼の“モデル”というブランドにとびつく女の子達に困っていたらしい。
恋人は今までにいたらしいけど、
彼を束縛し、
自分がいかに素晴らしい女の子か自慢し、
自分は自由を満喫しているのに彼には自分だけが愛されないと気がすまない女の子達ばかりで、
その関係の全ては長く続かなかったらしい。
モデル業をしているため、
相手がファンの女の子達であるため、
強くは言えないし、
明らかな拒絶ができなかったらしい。
そんな中、いつものように、あるファンの子からの告白の呼び出しがあった。
そして、いつものように、断ろうとした。
だけど、いつものように、相手は了承してくれなかった。
理由は特になくて、モデル業に専念したいと仄めかす程度。
その時、告白してきた女の子はかなりしつこかったようで、“黄瀬涼太”君はかなり困っていたようだった。
その時、誰かの足音を聞いて、私を見つけた。
そして、私を恋人だと、告白相手の女の子に言ったそうだ。
…全然聞いてなかった。
マジでパニクってたわ。
……でも、何で私を恋人だと言った後に冷めた視線を私に向けたの?
それは、初めて告白現場に出くわしたお前の顔が紅潮し、それを黄瀬が自分のファンで興奮していると誤解したからだろう。
あいつナルシストだし。
…あ、はい。
だが、お前は黄瀬を、モデルの“黄瀬涼太”を知らなかった。
まぁ、それが一つ目の誤解であり、黄瀬の思惑だな。
…あ、はい?
黄瀬はお前を利用しようと考えた。
ファンなら黄瀬の恋人という名目をもらえて狂喜するだろうと考えてな。
性格が悪いだろ?
あらかじめ、他の生徒から白い目で見られようとも、自分の恋人という立場の方がファンの女子にとっては価値があると思っているんだからな。
………。
…それで、黄瀬はファンの女子達に隠していてすまないが、恋人がいると宣言した。
まぁ、女子のメーリスと情報網はすごいからな。
あっという間に学校全体に広まった。
尾びれをつけて、な。
…尾びれ?
一つはお前が黄瀬を脅迫して、無理やり付き合っているということ。
一つはお前が黄瀬と付き合っているのは自分のステータスを上げるため。
一つはお前がモデルの恋人という立位置のみ欲しくて、黄瀬を放置している。
一つはお前がかなりのメンクイであること。
・・・などなど他にもあるが、割愛しよう。
それから、レイが話してくれたのは、私の身に起こった出来事の真相だった。
黄瀬君が私の教室にやってきたのは、噂の信憑性、ここでいう噂はモデルの“黄瀬涼太”と恋仲であることのアピール。
そのとき、私が“黄瀬涼太”君はモデルであると、“黄瀬涼太”の存在を知らなかったことに衝撃を受けたらしい。
それと、私が修君とラインしていたのを見て、男好きであるという噂に少しだけ、信憑性を感じたみたい。
私を呼び出した女子は帝光中のモデルの“黄瀬涼太”のファンクラブ幹部達。
それで、私の中の下の容姿かつ、女子力の無さに噂は嘘だと取ってくれたらしく、制裁はなかった。
…女子の制裁って、何?
恐い想像しかできない。
……でも、赤司君よりはマシかも。
うん。
それで、いったんは誤解は解けたはずだったけど、その後修君に抱きしめられているのを“黄瀬涼太”君が見ていて、男好きであるという噂にさらに信用したみたい。
そして、休日、たまたま帝光中の女の子数名といた“黄瀬涼太”君が、私が修君と緑間君と買い物をしているところを見られて、男好きであるという噂を完全に信じたみたい。
そのたまたま“黄瀬涼太”君といた女の子数名の中に、女癖の悪い男の子達が知り合いにいる、モデルの“黄瀬涼太”君の元恋人がいて、それが今日私をあの部屋に入れ込む作戦を立てた先輩で…。
それで、同じ事務所である“黄瀬涼太”君の動向・その周囲の変動を監視していたレイが先輩の計画していた部屋に潜んでいて、助けてくれた。
ちなみに、あのドアを蹴破った赤司君並に恐い男性は、
この帝光中の出身生で、
現役モデル・俳優で、
黄瀬君の先輩で、
レイのお兄さんで、
元不良高校出身生で、
元かなり上手いバスケ選手だった。
レイはあらかじめ、ああいうことが起こることを予想していて、二台の録音機を用意していた。
「本当に、先生達が先輩達を処分しないと、訴えるの?」
「……まぁ、あくまで教師陣に対する牽制(脅し)だな。
何かしらの処分、最低でも自宅謹慎さえすれば、そういうことはしねぇよ。
めんどいし、お前も嫌だろ?
いろんなやつらに話の種にされるのは」
「…うん」
今、副声音が聞こえたのは気のせいだ。
うん、気のせいだ。
「というのが、今までの経緯だが…。
すぐにはお前の立場は回復しないだろうな。
黄瀬のことは双葉、さっきドア蹴破ったやつが教育的指導(ヤキ入れ)するだろうから、もう黄瀬には脅えねぇでいいよ。
どうせ、もうお前に関わるなとか言うだろうし。
あいつから、何か謝罪とか欲しいなら、そう仕向けるが」
また、副声音…。
今回の件は、…恐かった。
もし、レイや修君達がいなかったら、……。
「ううん。いい。そういうのは。……あの、レイ。もし、よかったらでいいんだけど…」
「なんだ?秋野」
「レイとご飯食べたり、登下校したりしてもいい?」
「あぁ、構わない。もう一人いるが、構わないか?」
「うん。全然いいよ!ありがとう」
淡く微笑んでいるレイ。
彼女なら私の悪癖の克服を手伝ってくれるだろう。
誰かに依存・信頼しなければ自己を保てない私の悪癖を。
そして、修君を私の束縛から解き放ってくれる。
そう考えれば、私は“黄瀬涼太”君の過激なファンの人たちよりもサイテーだ。
だけど、彼女に、レイについていけば大丈夫な気がする。
今日初めて会ったのに…。
もう“黄瀬涼太”君のことは忘れよう。
そして、修君にはもう大丈夫だって言おう。
あぁ、一軍ルーキー達にも。
あと桃井ちゃんも。
心配させちゃったから。
もう大丈夫だから。
大丈夫だから。
このヒトに“従”えば大丈夫。
友情や恋愛というよりも、忠誠心という方がしっくりくる。
私はずっとこんなヒトを待っていた。
望んでいた。
求めていた。
このヒトさえいれば、大丈夫。
そうやって、また依存しちゃうけど。
大丈夫。
大丈夫。
ダイジョウブ。