心と秋の空
□6.碌
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日曜の部活終了後。
「先輩。この後、暇ですよね」
…あれ、私先輩だよね。
何で、後輩に暇人扱いされてんの?
「おー、暇だぜ。何か用事か?」
…あれ、私が尋ねられたよね。
何で主将が答えてんの?
「はい。明日のラッキーアイテムが金色のリストバンドだったので、リストバンドマニアの先輩なら知っているかと思ったので」
…あれ、リストバンドマニア?
何で、後輩にそんなマニアックなマニア扱いされてんの?
「金色かー。あんまねぇよな…」
…あれ、私が尋ねられたよね。
何で主将が答えてんの?
「ですが、主将のリストバンドは異常な趣味のものもあるので、秋野先輩のいきつけの店に案内させようと」
…あれ、私先輩だよね。
何で、後輩に異常趣味者扱いされてんの?
「あー、さすがにド派手な赤の生地に毒々しい紫のリンゴ柄もらったときには呪か何かかと思ったわ」
「お先に失礼しまーす」
「「待て」」
「緑間君、私先輩だからね!!!?」
そんなこんなで、幼馴染と後輩とで雑貨屋さんナウ。
あのリンゴ柄可愛かったのにー。
「すみませーん。金色のリストバンドおいてありますか?」
「はい。ございますよー」
「マジか」
「さすが、秋野先輩ですね。これからもラッキーアイテム収集に協力するのだよ」
「後半タメ語かよ!!?」
「お前だからしゃーねーよ」
「主将!!?」
カラカラ笑う虹村君は店内を見回っていた。
緑間君も雑貨屋さんが珍しいのかいろいろ物色していた。
私は店員さん待ち。
しばらくすれば、金色のリストバンドが現れて、緑間君と虹村君は感動していた。
そんなにすごいんだ。
金色のリストバンドって。
私は桃井ちゃん用に可愛いピンクのタオルを購入。
緑間君は金色のリストバンドとは別に、いろいろ買ってた。
奇抜なぬいぐるみとか、文房具とか。
うん。
ラッキーアイテム用ね。
虹村君も何か買ってたみたいだけど、体格がいいからよく見えなかった。
うん。
バスケ部身長高いな、オイ。
店を出れば、解散となるはずだったけど、私は緑間君にあるものを押し付けられた。
「先輩、今日はありがとうございました」
そう言われて、緑の瞳を見上げれば、嬉しそうな、満足げな色。
言動とか酷かったけど、終わりよければ全てよし。
私も嬉しいし、満足だ。
「どういたしまして。これ、もらっちゃっていいの?」
「それは明日の先輩のラッキーアイテムです。良ければつけてください」
「何かな〜」
嬉しくなって、開ければ、赤いフレームに白い水玉がのってるヘアピン。
驚いて固まっていると、不安げな視線が突き刺さる。
あぁ、馴れてないんだよね。
こういう贈り物は。
それに、あんまりこういうのつけない私の趣味もわかんなくて、迷ったりしてくれたんだよね。
「緑間君」
「は、はい」
不安げな視線がさらに揺れる。
「ありがとう!すごく嬉しい」
「……。では、また明日の朝練でお願いします」
耳まで真っ赤な緑間君はスタスタ歩いていった。その背中を見て、私と虹村君は笑った。
「「ほんと、ツンデレだよな〜」」
台詞がかぶったから、私たちはまた笑った。
「そのヘアピン、つけてやれよ」
「うん。大事にする」
「そっか。じゃ、これも大事にしてくれよ」
そう言って渡されたのは包装無しのリストバンド。
「お前、趣味悪いんだから、ソレ参考にして趣味直せ」
「悪くないし」
「悪いんだよ。ほら、さっさとつけろ」
「もー。強引なんだからー」
「アホなお前に言われたくねぇよ」
私の腕にはまったのは虹色のリストバンド。
地味な私にはちょうどいいパステルカラーで、すごく嬉しかったよ。
ここ最近、散々なことしかなかったから、こんな平凡な日常を“碌”な日に感じた。
だけど、平凡な日常は今日までで、後は、変化に流されるだけだった。