心と秋の空

□5.誤
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【昼休み、二年校舎裏に一人で来い】
 


そんな手紙が私の靴箱に入っていた。

それを開けたときに感じた視線は無色のものではなく、悪意のある視線。


…多分、ここ最近私がはぶられていることの核心に近づける。

え?何でクラスの人とか虹村君とかに聞かないのかって?

だって、噂だから。

誰が真実を持っているかもわからないのに、闇雲に探し回っても混乱してわけわかんなくなんのが落ちだし。
 

というわけで、午前中はクラス全員にシカッティングされて、二年校舎裏ナウ。
 


授業終わってすぐに行ったから私が少し待った感じ。

二、三分して現れたのは学年でも派手な人たちだった。

見た目は知ってるけど、関わりは一切ないはず。

なのに、彼女達の視線は侮蔑、嫌悪、嫉妬。

女子特有のドロドロした視線だった。

これが嫌いだから、あまり女子に関わりたくないのに。


「あんたが秋野よね」

「はい」
 

リーダー格の女子生徒が私に一歩近づいた。

他の三人は後ろで控えているけど、視線は相変わらずドロドロしている。


「なんで呼ばれたかわかってる?」

「全く」

「はぁ?」

「でも、私が最近はぶかれていることに関係しているのは知ってる」

「……何、しらばっくれてんのよ!!あんたが、黄瀬君を脅して無理やり付き合ってるんでしょうが!!!」

「…は?いや、ワタシ、喪女。恋愛経験ナッシング」
 

多分、今、私は女子力の欠片もないぐらいなアホ面をかましていると思う。

だって、さっきまですごい剣幕だったリーダー格がやや呆れてる。


「だ、だって、黄瀬君が…」

「いや、黄瀬君って誰?そんなに有名なの?」

「有名って、モデルよ!!?一年の黄瀬涼太!」

「…へー、知らん」
 

初対面であるのに、ついつい素で対応してしまった私。

そのあっけからんとした私の態度に女子生徒たちの視線は女子の三大ドロドロではなく、戸惑いに変わっていた。
 


「いや、まさか…」

「だって、こんなアホ面女となんて…」

「てゆーか、黄瀬君知らないとか女子じゃなくない?」

「自分で喪女っていう?フツー」
 


なーんて、失礼な言葉も聞こえてきたけど、まぁ誤解は解けたのかな?
 


女子グループはいそいそと帰っていった。
 
よーし、早くご飯食べよう。

ボッチ飯だけどな。

ワッハハー。
 


女子グループ達の視線から解放されたその時、三箇所から視線を感じた。


一つはあの不思議な無色の視線。

一つは幼馴染の安堵した視線。

もう一つはあの、気味が悪い能面の黄瀬君の視線。
 

不思議な無色の視線は上から感じたから見上げたけど、見上げようとしたのと同時に消えたから、確認できなかった。
 

能面君は後ろだけど、振り返りたくない。

怖い恐いこわい。


「なーに、今さらビビッてんだよ」
 

ぽんっと、私の頭に手をおいたのは修君だった。


「しゅう、くん」

「よく頑張ったな。空」
 

ニカッって笑う幼馴染に安心して、私はいつのまにか逞しくなっていた胸板に縋り付いた。

珍しく素直な修君は私を受け入れて、抱きしめ返してくれて…。


「しゅうくん…」

「おー、なんだ?空?」
 

中学生になって、お互い名前呼びを止めるようになったのは私の一言から。

このマンモス校で大量の好奇の視線が突き刺さるのが酷く辛かったからだ。

中には嫉妬の視線や、嫌悪の視線もあった。

小学校のころには感じなかったものがあった。

それが、酷く恐くて、距離をおくよう修君に頼んだ。

修君は快く承諾してくれて、私から提案したのに寂しくて…。
 

だけど、今、その距離は縮まっていた。

壁なんかなくて、幼馴染に戻れていて。
 

体格とか声とか変わったところはいっぱいだけど、言動とか温もりとか変わってないところもいっぱいで。
 


その事実に癒された。

 




















これで“誤”解はとけたはずだった。

だけど、また新たな誤解を生んで、さらに誤解が複雑になってしまっていたことに気づけなかった。
 

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