心と秋の空

□4.視
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…。

ここ数日視線を感じる。
 

あの悪意のある視線でも、冷ややかな視線でも、好奇の視線でもない。

もっと色彩の無い視線。

それは廊下に出ると常に感じる…。

とうとう精神いかれちゃった(笑)。



………笑えねー。



「笑えねーよ。ソレ」
 

部活ナウ。

現在休憩中の虹村君に最近感じる視線について語ってみた。

そしたら、虹村君は神妙な表情になっちゃった。
 

私は極々平凡な女子中学生だ。

ただ他の人より人の感情を読み取るのに長けているだけの。

……といっても、心が読めるわけじゃなくて、なんとなく好き嫌いとか悪意とか善意とか歓喜やら憎悪やらに敏感なだけ。

ただ、あの能面の“コウセ”く…、じゃなかった、“キセ”君の感情はいまいちわからない。

後は赤司君かな。

ポーカーフェイス、中学生にしては上手すぎるんだよなー。


「で、異変とかはねーんだよな」

「うん。特にな……!?」
 

無色の視線を感じて勢いよく振り返った。

だけど、一軍専用体育館の出入り口には人っ子一人いない。
 
虹村君が立ち上がって、出入り口まで走って外を確認してくれたけど、誰もいなかったみたい…。


「………悪意や嫌悪はゼロか?」

「う、うん。今のところは」

「特徴とかねぇの?」

「…中性的、かな?」

「他は?」

「あとは…、」
 

あまりに無色すぎて、本当に人間なのかわからない。

ほんとうなら、女子と男子の区別ぐらいはできるのに、その区別さえできない。

そして、どんな感情・視線でも僅かな色が浮かぶはずなのに、色がない。



…まさか、アンドロイド!?



「……あんま、一人で行動すんなよ」

「すでに一人でーす」

「………そういやお前ダチいねーもんな」

「あんまり女子と話すの好きじゃないからさー。恋だの、芸能人だの興味ないわー。バスケできりゃぁ文句ねーもん」

「悪かったな。ここ女バスなくて」

「ううん。ろくに調べずに入ってきた私も私だから。高校なったら女バスがあるとこはいるよ。今は、個性豊かな一軍のマネジでしあわせ」
 

それは本心。

いくらクラスや学年にはぶかれようと、一軍のメンバーの仲良い人たちは普通に接してくれる。

部活は唯一のオアシスだから、よりいっそう腕が鳴る。


「それじゃー、練習始めましょう!主将」

「おお」






















【秋野空
 
帝光中二年生。
 
帝光中男子バスケ部一軍専属マネージャー。
 
この前の定期テストは学年3位。
 
運動神経は良いが、特にバスケに長けている。
 
バスケのポジションはPG。
 
ストバス経験者。
 
帝光中男子バスケ部主将の幼馴染。
 
恋愛経験はなく、バスケ馬鹿。
 
友好関係は非常に狭く浅いが、バスケ部の一部とは非常に仲がいい。
 
現在、クラスにて彼女を擁護する人物はなく、教師も気づいていない。
 
この状況の原因・経緯を気にかけることなく、自己を保つ。
 
“黄瀬涼太”のことを知らず、“モデルの黄瀬涼太”と“告白されていた黄瀬”とを同一人物だと認識していない。

 


追記:彼女は視線・感情を読み取るのに長けているという憶測は事実。

現在、視線には気づいているものの、その正体までは把握できずにいる。

 


彼女に関する憶測・噂があれば、追加で情報を頼む】
 




スマホからメールが送信された。
 

バスケ部一軍専用体育館の向かいに位置する校舎の教室で一人の少女が溜め息をつく。


「ったく、なにしてんだ。あの馬鹿は」

 















無色の“視”線は透明であるわけではなかった。

不純というよりも、無機質さを、使命感・責任感を感じる固体感が強調されていた。

だけど、その厳格な印象とは裏腹に、どこか安堵を覚えるものが秘められていたから、私は特に恐怖を感じることはなかった。
 

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