心と秋の空

□1.位置
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今日のおは朝は緑間君曰く、



「先輩。今日の先輩は十年で一番不幸な日になるということです。

“普段しない行動は控えるように”と、おは朝で言っていました。

また、ラッキーアイテムは“赤い褌”ということでしたが、俺は持っていませんので、滅多な行動は起こさないでください。

あと、部活には来ないでください。

今すぐ、教室へ向かってください。

俺たちにまで先輩の不運がやってくるかもしれないので」
 
 

そう部活の朝練開始前に約10m離れて、宣告された。
 
私は新手の先輩いじめかと思うぐらい、精神的ショックを受けた。
 
だって、結構仲いいと思ってた後輩から拒絶宣言されて傷つかないはずがない。

一人、呆然としていると、幼馴染の修君、じゃなかった…、主将である虹村修造君が緑間君の綺麗な頭に拳固していた。
 

あー、痛そう。


「何、秋野に部活来んなって言ってんだ!一軍のマネージャーはただでさえ少数精鋭なんだから、抜けてもらっちゃ困るのは俺らだろーが!!」
 

こうやって庇ってくれるのは嬉しいけど、言葉よりも先に手が出ちゃうのはだめでしょ。


「緑間君、大丈夫?主将も、大事な選手に手を上げないでくださいよー。どんな愛情表現ですか。Sなんですか?ドSなんですか?ねえねえ、緑間君。もし、ラッキーアイテムが鞭とか荒縄だったら主将に借りればいいよ」

「ざっけんな!!誰がSだ!」

「帝光男子バスケ部主将でっす」

「ウインクできてねーよ!!!」

「苦手なんで」

「じゃぁ、すんな!!」

「主将、朝っぱらからうっさいです」

「誰が叫ばせてると思ってんだよぉぉぉ!!」

「はーい、部員集まってー」

「スルーしてんじゃねぇよ!」
 

本当に朝から元気だなぁ、虹村君。

私あんまり大きな声でないからなー。
 
なーんてことを考えながら、虹村君いじりを楽しんでいた私は失念していた。
 
恐ろしいくらい的中するというおは朝を妄信する緑間君からの忠告を。



 











昼休み。
 

私は水筒を忘れてしまっていたため、クラスの比較的仲のいい友人達に先に食べておくように言って、一人で購買に飲み物を買いに行っていた。

買ったのは某メーカーのおいしいお茶。

その500mlのペットボトルを片手に私は近道となる裏道を走っていた。

友人には先に食べておくよう言っていたけど、できるだけ一緒に食べたいから。

そう思いながらその、“普段は使わないルート”を選んでしまっていた。
 


それが最悪の結果を生むとは知らずに。
 


この角を曲がれば、二年校舎の入り口。

軽くスピードを緩め、カーブすると、そこには軽そうな男子生徒と頬を染めた化粧の濃い女子生徒がいた。

告白現場に予期せず出くわしてしまって、本日二回目の呆然状態でいると、男子生徒が私に近づいてきた。
 


私は基本、予想外のことが起きると現状把握に時間がかかり、正常な行動ができなくなるのだよ。その癖がいけなかった。



「俺、この人と付き合ってるんで、申し訳ないけど、諦めてもらってもいいスか?」
 

初対面であるはずの男子生徒は女子生徒に見せ付けるように私の肩を抱いて、何か言っていた。

喋っていることはわかるけど、言語理解ができない。

そんぐらいてんぱってる。
 
女子生徒は私を睨み付けて、走って逃げていった。


訳わからん。

どういう状況?

脳よ、しっかり機能してくれ。
 

男子生徒は女子生徒の姿が完全になくなったのを見て、溜め息をつき、私から離れた。


「ということなんで、よろしく」
 


トイウコトナンデヨロシク?

何語?

日本語喋れや。
 


男子生徒は冷めた眼差しを私に送り、一年校舎に向かっていった。

…今年の一年、個性的なやつらばっかじゃね?

なーんて、男子バスケ部の一軍ルーキーを思い出しながら、私は何事もなかったように教室に戻って昼食を取った。














 

今日、この日まで帝光中で築いてきた立ち『位置』は、今日、この日までのものとなるなんて、思ってもいなかった。

だけど、それは仕方がなくて。

だって、人間だもの。

私も、皆も。

変わらない人間はいないから。
 

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