キセキの始まり
□11Q
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「ちょっと、もらいます」
「!?」
(ちょっ!?いつからいたの!!)
開桜PG和沙から柚子へのパス間に躍り出たのはレイだった。
さっきまで菊花と共に自陣のゴールにあったその姿は、あっという間にセンターサークル付近にいた彼女達のところにいた。
「ざけんな!」
ボールを構えるレイ。
その前には少し遅れた菊花が跳ぶ。現
在、センターラインよりも一歩相手ゴール側。
観客だけでなく、コート上の選手やベンチにいる者達、そして、レフェリーでさえも息を呑んだ。
ドンッ。
「っ!!?」
「すみません。15点ビハインドということで」
微笑むレイ。
ピィー!!
高く放られたボールは綺麗な弧を描き、会場中が沈黙する中、リングを通って、ネットを揺らした。
ボールが床に落ち、静寂の中を転がる。
「プッシング!!黒7番!!バスケットカウント、ワンスロー!!」
レフェリーの声で、会場の時は再び動き出した。
「バスカン!!4点プレイ!?」
「てか、おい、いつからあの誠凛の10番あそこにいた!?」
「スゲー!!ほぼハーフラインから打ちやがった!!」
「しかも、ファウルもらいながらだろ!!」
「開桜の7番はこれでファウル4つ目!!?」
レフェリーにボールを渡されたレイはフリースローラインから放った。
それは再びリングに掠ることなく、点を刻んだ。
開桜選手達は息を呑むしかなかった。
観客が言うように、レフェリーが示したように、これで千野菊花のファウルは4つ目。
前半で3回ファウルをとらせたのは全てレイではなかった。
一回目は撫子、二回目は粟花、三回目は芒であった。
そして菊花は元々ファウルをそこまでとらせない選手であった。
女帝のスターティングメンバーであり、実力は中堅校のエース級。
しかし、そのプレイの特性やくせは全てレイが知っていたものであり、彼女の前半のファウルもレイが意図してとらせたものだと分かったのは元相棒であった香蘭と、勘で薄々感づいた柚子だけだった。
他のメンバーは菊花にドンマイや、ここからだよ、と声をかけていた。
「参ったな」
そう呟いた柚子の瞳には闘志が燃えていた。
残り38秒。
「速攻!!」
柚子の投げたボールはやや低い山なりを描きながら、ゴール下へと走る開桜SG、利奈達に向かっていった。
それを追う誠凛であったが、開桜ゴール下には粟花が待機し、柚子を足止めしていた。
「それも銀の策?」
「うん。よく分かんないけど…」
へにゃりと笑う粟花に柚子は眉を顰めた。
「銀の方が強くて、頭いいんだ」
自嘲気味に笑う好敵手の姿に、柚子は先陣にいるレイに視線を向けた。
利奈の放ったボールをレイがブロックし、そのままレイのアイコンタクトにより走り出していた葛の手に渡る。
葛とのアイコンタクトに気づいた香蘭が葛の前に躍り出るが、葛はすぐに横に視線を前方に見据えたまま、バウンズパスを出した。
そこはフリー。
だった。
ぐんッ。
後方から走ってきたレイが床に打ち付けられ跳ね上がったボールをキャッチした。
レイを止めようと動いた香蘭は葛がスクリーン。
ドライブで開桜の陣に侵入したレイを柚子が迎え撃つ。
二人が跳んだのはほぼ同時。
しかし、レイが放ったのはシュートではなく、
ノールックパスだった。