キセキの始まり

□10Q
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IH予選決勝リーグ二日目。


「ちょっと行ってきます」

「は?もう少しでアップの時間だよ」

「はい、すぐに戻ってきます。銀レイに会ってくるだけですので」

「え、ちょっと金泉!?」

「どうした?日野」

「あ、主将…。金泉が相手チームの銀に会ってくるって行っちゃったんですけど…」

「真面目なあいつのことだ。すぐ戻ってくるだろう。皆、アップの準備を始めておけ!」

「「「「「はい!!」」」」」





「少し、出てきます」

「え?どこに?」

「『金のペテン師』に会いに」

「いってら〜」

「行ってきます」

「は?いいのか、源」

「いーのいーの。気合い入れとかそんなもんっしょ。んじゃ、ぼちぼちアップの準備でも始めよっか」





















「おい、あれ…」

「今からアップの時間だろ…」

「なんでこんなとこに」
 

観客席へと向かう通路の一角に、今日の試合に出るはずの注目選手二人が佇んでいた。


「結構注目浴びるもんだな」

「そーだろうね。あんたのせいで」

「俺のせいになるのか?」

「指定したのはあんたでしょ」

「ここが一番分かりやすいと思ったんだよ。自販機あるし」

「……で、何の用?弟に私のメアドまで調べさせて」

 
一人は金色のショートカットの少女。

もう一人は銀髪のセミロングの長身少女。
 

見た目だけでも目を惹くが、彼女たちは今回のIH予選決勝リーグの試合の中でも要注目の学校同士。

つまり、本来アップ前に仲良く話す関係ではなく、敵なのだ。
 
ましてや、エース級の実力を持つ。

銀髪の方はあくまで一試合しか出ておらず、その目で彼女のプレイを見たものは少ないのだが。


「三年ぶりだな」

「そうね…」

「『金のペテン師』復活…か」

「『銀の道化師』はまだ復活しないの?」

「あんまその呼び名は好きじゃないんだよ。変に注目を集めるから」

「今はもう覚えてる人も少ないしね」

「そうそう。実際俺達にとってミニバス時代の情報掘り起こされるのも嫌だろ?」

「まぁね。てゆーか、いつの間にバスケし始めたの?引退したと思ってたのに」

「ほんとなら、先輩の娘さんを見守ろうと男バスのマネージャーするつもりだったんだけど、予想外のことがあって、女バスに入ったんだよ」

「ストーカー未遂ってわけね」

「………怒ってんの?」

「少しだけ。…勝つ気あんの?予選で一試合しか出てないとかふざけすぎ」

「そう?若い衆で十分だと思っただけ」

「両性態ババァ」

「口悪いのはご健在か」

「道化っぷりも相変わらずね」

「偉大なるペテン師様からお褒めの言葉をいただき、恐悦至極にございます」

「………」

「じゃ、試合でね。コウ」

「手、抜かないでね。レイ」
 

それぞれが自分の高校の控え室へと向かう。



「………気分、でね」

「………相変わらず気に食わない」
 


もう届かない筈の言葉。

しかし、互いの表情で相手の意図がわかるぐらいに彼女達はお互いのことを知り尽くしていた。
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