キセキの始まり
□9Q
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「いただきまーす!!」
朝から複数の元気な声が鳴り響く。
「ちょ、それ俺の玉子ー!!」
「あー、もう、ウインナーねー」
「あ゛あ゛〜ん」
「みそ汁多い、そっちがいい!!」
食卓でわいわい騒ぐ子供達。
おかずを取り合ったり、泣き出したりと忙しない。
その近くではせっせと大盆に食事を載せて運ぶ長身の少年。
台所に立っていた少年に酷似した眉をもつ少女が時計を見ながら、少年に声をかける。
「凛兄、いーよー。食べな。もうそろそろ、行かないと…」
それを受けて時計を見た少年は申し訳なさそうに眉を下げ、自分も朝食を摂ろうと、まずは食卓の空になった皿を集め始めた。
「………」
仏壇の前で手を合わせる眼鏡をかけた少女。
「行ってきます。母さん」
いつもなら見せないような淡い微笑を浮かべ、仕事の下準備をしている父親に一声かけた。
「行ってきます」
「おう!頑張って来い、ナツ!」
「はい」
彼女はガッツポーズをする父に苦笑を浮かべると、居間から顔を出した妹達にも声をかけた。
「遅刻するなよ」
「しないもーん」
「頑張ってねー」
「お姉ちゃんなら勝つって!」
「じゃぁ、行ってくる」
「いってらー」
「いってらっしゃい」
「遅刻しないでねー」
「誰がするか」
呆れたように溜め息をつき、少女は居間を後にした。
シャコシャコと歯磨きをしながら、ヘアバンドをした女性が弟の部屋へ入ってきた。
この部屋の主は既に時間は危ういというのに未だ夢の住人。
「遅刻するよ。バカタレ!」
パァンと叩けば、う〜んと呻いた少年。
「ねーちゃん…。もーちょい…。てか、試合は夕方から…。夕方から〜…」
「その前に学校あんだろ!!」
至極当然のツッコミを受け、彼はもぞもぞと動き出したものの枕に突っ伏し、再び姉に殴られることとなった。
「んー」
制服に着替えた女子が鏡の前で髪を整える。
すると、近くに置いていたケータイが鳴り始めた。
「もしもしー。おっはー、ゼロちゃん」
【朝からうざいよ。そのテンション】
「だって、今日決勝リーグじゃない」
【くれぐれもそのうざいテンションのまま姉貴の足ひっぱんないでよ】
「本番には強いもん」
【“もん”とかきしょいよ。年齢考えなよ、おばさん】
「あははー。ほんっと、苛つく」
【皺増えてもあんま変わんないでブスだから、いいんじゃない?皺だらけになっても】
「……素直に応援できないのかなー」
ツーツー。
「あーらら。切れちゃった」
通話が切れたことを知らせる画面からホームに切り替え、少女は微笑んだ。
「家主から応援電話もきたんだから、勝たなきゃ何されるかたまったもんじゃないねー」