キセキの始まり

□8Q
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「ストレッチはいつも以上に入念にねー」
 

誠凛バスケ部名物『プール練』。
 

誠凛高校から徒歩10分、相田リコの父が経営するスポーツジムがある。
 
週3回、朝。
 
ジムが開く前の早朝。
 
朝練の代わりにここでフットワーク・筋トレを行っている。
 
トレーニング設備はもちろんあるが、体のできていない高校生には怪我の恐れがあるので使わない。
 
水中は逆に浮力があるので、体を痛めにくい。
 
が、同時に抵抗も大きいので、実は…超キツい。


「…49!」
 

プールの中でかけ声をあげるのは誠凛男子バスケ部。


「…50!!」

「はい、一分。休憩ー」
 

50までスクワットを終えると、監督であるリコから休憩が言い渡された。


「あ゛ー、キッツイマジ!!」
 

休憩とはいえ、あくまで一分。

その短い間、日向は休息がてらプールの縁に頭を預け、プール練用の練習メニューを眺めていた。


「面白い練習してますねー」

「!?」
 

急に日向の顔に影が差し、レンズ越しの双眸が見上げる先には女子の生足。

豊かな胸。桃色の艶やかな髪。


「…!?どうしたキャプ…」

「っておお!!?誰!?」
 

紐ビキニを纏った桃色の髪の巨乳美少女がしゃがみこんでいた。
 
男子の視線は彼女に集まり、彼らの顔は朱がさす。


「…桃井さん」

「知り合い!?」
 

騒然となるプール館内で、声を発したのは黒子だった。


「えっ…と、どちら様?今日は休館日ですけど…」

「え〜と…、なんて言えばいいのかな〜?」
 

騒ぐ男子に内心キレながらも、館長の娘であるリコは極当然の指摘を不法侵入者とも言える彼女にした。


「テツ君の彼女です。決勝リーグまで待てなくて来ちゃいました」

「テツ君?」

「黒子テツヤ君」

「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」
 

リコの問いに答えるどころか男子をさらに混乱させる爆弾を投下した巨乳少女。


「黒子ォ、お前、彼女いたの!!?」

「違います。中学時代、マネージャーだった人です」
 

少女の発言を否定する黒子。相も変わらずポーカーフェイスだった。


「帝光の…!?」


(そういえば、決勝リーグって、確か…。次の対戦相手なの…!?)
 

リコがそう思案する中、桃井はプールから上がった黒子に勢いよく抱き着いた。


「!テツ君!?ひさしぶり、会いたかったー!!」

「苦しいです。桃井さん」
 

そして、豊満なボディが密着しても安定の黒子。


(何がなんだか分かんねーけど…。うらやましすぎる黒子!!いいなあ黒子!死ねばいい!!)


「ちょっ…、いやいやいや。さえねーし、ウスいし、パッとしないし」
 

そんな男のロマン的な状況にある黒子を僻む男子達に、桃井はにっこりと笑った。


「え〜。そこがいいんですよ〜。でも、試合になると別人みたく凛々しくなるとことかグッときません?」
 

そう言った桃井は、ふと幸せそうな表情をした。


「あと…アイスくれたんです」

「はあ!?」
 

まぁ、要約すれば学校帰りに友達とアイスを食べているのを羨ましそうに眺めていた桃井に黒子がアイスの棒だけをあげて、何だよゴミくれやがって、と桃井がキレながら、棒の裏を見るとそれが当たりだったわけで…。
 

それが桃井のハートにばっきゅーんとキューピッドの矢が射られたそうな。


「だから、ホントはテツ君と同じ学校行きたかったのー!!けど…、けど…」

「桃井さん…。プール内は響くんで、大声は控えてください」


(なんだ、この展開…)


「なっ…。ななな」
 

もう何が何だか分からない状況にリコは苛立ちを隠せなかった。


「いったい、なんなのあの子!?」
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