キセキの始まり

□6Q
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第3Qが始まって、誠凛からのボール。
 

銀さんが提示した作戦は既に実行されている。
 


マンツーマン。
 


徹底的に私達はディフェンスに努める。

ボールは極力、銀さんに渡す。

シュートは打てる自信があるなら打つ。


その三つだけ。
 




勝利を諦めかけていた私達に粟花は言った。

勝ちたい、と。
 


粟花の言葉に揺らいだ私達に銀さんは言った。

勝たせる、と。
 




その言葉に賭けた。
 




銀さんにパスが渡る。

ドライブでペネトレイトしようとする彼女を止めようと、直ぐにやってくる相手チームのエース。
 


あっという間。
 


その表現が正しい。

気づいたら、ボールが入っていた。
 
味方も、相手も、観客も、審判ですら反応に遅れた。
 
銀さんがいたのはちょうどセンターライン。3Pだ。

誠凛に3点加算され、理解もままならないまま、相手ボールから始まる。
 

相手が銀さんをマークする前に、銀さんは相手ボールをスティールし、そのまま模範的なジャンプシュートを決めていた。

まるで、動きを読んでいるように。赤子の手をひねるように。
 




第3Qで私達がボールに触れることは無かった。
 
そして、タイムアウトを一回使った筈の相手も点を入れることなく、ましてや、自陣のゴールに近づくことさえ許されなかった。
 
今、気づいたのだけれど、第3Q終了時点で、私達は既に逆転していた。



【聖マリア女学院-誠凛 52-60】
 


つまり、第3Qだけで銀さんは一人で36点入れたということ。

それでも、まだ本気じゃない。

最初の動きはわからなかったけど、それ以外は全て実に基本的なジャンプシュートだけ。

実に模範的な動きしかしていない。

カットもスティールもドリブルも。



だけど、その動きで第3Q中、相手のエースは銀さんの味方である私達が目も当てられないまでに大敗を喫していた。


第4Qはもう見てるこっちが辛かった。

相手のパスミス、ファンブル、ファウルの数々。

前半の勢いは見る影も無かった。

だけど、それ以上に、相手選手の絶望した表情が忘れられない。

もし、銀さんがいなければあの立場は私達のものだった。
 









それに、銀さんの独壇場プレイは去年から頑張っていた私達のチームプレイを否定している気がして、辛かった。

去年の一回戦敗退以上に、悔しかった。



自分達の無力さを痛感した。
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