The cruel game of heart
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「ブラッド……、デュプレ」
「どうした、アイリ」
「っ……」
愛玩動物と戯れるように、帽子屋ファミリーのボスはアイリの頬を撫でた。
それに反応し、アイリの頬が赤く染まる。
びくりと身体を震わせた少女を眺めながら、ブラッドは口角をつりあげた。
「あのメイドのことなら気にしなくていい。役無しだ。代わりはいくらでもいる」
「…………殺さないの?」
惚れた男からの愛撫にアイリは気を失う前の出来事を完全に忘れていた。
しかし、ブラッドの言葉で
刀の重みを、
首をはねた時の衝撃を、
親しかったメイドの最期を思い出し、問うた。
覚悟はしていたことだった。
マフィアの保護下に入った時点で。
いや、ブラッド=デュプレの愛玩動物となり下がった時点で。
飽きたら殺される。
害となれば殺される。
そう自分自身にアイリは言い聞かせて、今まで生き延びてきたのだから。
今回、アイリは彼の部下を殺したばかりではなく、その中の十数人の意識を、身体を意のままに操ることができる状態なのだ。
それはアイリの意思ではなく、罪歌という化け物の意志によっても可能。
リスクは十分、ファミリーだけでなく、この世界の秩序を崩壊させられるだろう。
「殺す?馬鹿を言うな。こんな面白い存在をそうそう殺しはしないさ」
「だって……」
「君の中にある妖刀のことは文献で知っているさ。私がそんなもの如きに後れをとると思っているのか?」
冷めた目。
空気の温度が下がった。
ブラッド=デュプレ。
確実にこの男は罪歌に“触れられても”、“愛されることはない”。
そう彼女を知る者に実感させる男。
それが帽子屋ファミリーのボスなのだ。
「…………」
声が出なかったアイリは、首を横に振った。
それを見て、ブラッドは笑みを深める。
「エリオットが君のことを警戒していてな。しばらく、この部屋にいなさい。私がいいと言うまで出てはいけない。風呂もこの部屋にはある。食事も紅茶も出してあげよう。文字通り、君は客人だ。主人のもてなしに快く応じてくれるな」
「はい……」
有無を言わさぬ威圧感に、アイリは掠れた声で答えた。
最後にブラッドは少女の頭を一撫でし、部屋を後にした。
一人残されたアイリは膝を抱えて、頬を濡らす。
それは罪悪感からでも、
軟禁への不安からでも、
マフィアのボスへの恐怖でもない。
ブラッド=デュプレという男を恋しく思う感情からだった。