The cruel game of heart

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母が死んだ。
 

交通事故だったらしい。

買い物帰りの母を轢いたのは、飲酒運転をしていた男だった。

遺体は見せてもらえなかった。

そのぐらい酷い有様だったようだ。

それが切欠だったらしい。
 


父がおかしくなった。
 
今まで温厚で誠実という言葉が似合う男は、酒におぼれ、大量の煙草を吸い、ギャンブルにはまっていた。

大手の企業に勤めていたが、暴力事件を起こしたらしく解雇。

両親が一緒になって貯めていたお金は湯水のように消えた。
 




中学校まではなんとか行くことができた。

それも祖父母が養育費のみは出してくれたおかげだった。

多めに渡せば、父がギャンブルに注ぎ込むからだ。

高校は行けなかった。

職には、……就くことには就くことができたと言っていいのだろう。

一言で言えば、身売りだ。

父は闇金にまで手を出していたらしい。

堅気ではない借金取りとの交渉材料は、実の娘である私だった。



昔は理想の男性といつか巡り合い、幸せな家庭を築けるのだろうと考えていた。

だが、現実は、悲惨だった。

私の容姿は実年齢よりもかなり幼く見える。

それがウリだったらしい。

客がつけた渾名は、「天使」。

ハーフである私の容姿は、よく絵画にいるような天使に見えたからだそうだ。

あと、従順で、何でもしてくれるだから、だとか。


従順?


ふざけないでと思った。

従順でなければ、私は“私”でなくなるのだから。

客に商品として扱われていないと、私は母の代わりとして父に女として浴の捌け口に使われる。

自分が何者なのかわからなくなるのは、客を相手にしても、父を相手にしても同じだった。

ただ、あの頃の、幸せだった頃の、思い出を、愛しい母を穢されるのがどうしようもなく嫌だったのだ。

だから、私は“天使”であり続けた。

笑顔で、従順で、どんな男にでも気に入られるようなそんな存在に。

だから、恋なんて知らなかった。

焦がれるような想いを知らなかった。
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