The cruel game of heart

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「ふぅ……」
 

ボリスは多分、客室でお姫さんに、猫缶とか、俺との関係とか、猫缶とか、ダンスホール抜けた後とか、猫缶とか、猫缶とか、猫缶とか、猫缶とか、……。

うん、猫缶が大半だろうな。

まぁ、覗きに来られるよりはマシか。
 

男型に戻って、俺は近くにいた城のメイドに仕事を頼んだ。

それは、客室にて待っているという旨をお姫さんに伝えてもらうということ。

久しぶりに泣いたせいか、目が赤い俺をメイドは心配してくれたけど、後ろで威嚇しているだろう猫にビビってた。

というわけで、足を思いっきり踏んでみた。そしたら、猫も泣いた。

ざまぁ。
 


近場の客室を選んで入れば、当然の如く入ってこようとするチェシャ猫。

疑問を視線で訴えれば、噴水近くでの宣言を提示された。
 


――キラの想いも、過去も、否定しないから。俺のこと、傍においてよ……。
 


それは、俺の想いも、過去も知らないからこそ言える台詞。

だけど、それに甘えたいという自分もいた。

重ねてる。

だけど、違う。

なのに、重ねてしまう。

本当に、自分の女々しさに呆れてしまう。

だから、……素早くドアを閉めた。



「に゛ゃ!?」

「どこぞのセールスマンか。お前は」
 

片足を入れて、ドアが閉まろうとするのを防ごうとしたチェシャ猫は、隙間に手を入れて、力を入れたため、俺のを閉めようとする力と拮抗してしまい、ドアが変な音を立て始めた。


「いやいや、この流れで閉め出す!?フツー」

「俺は異物だ」

「いやいやいや、関係ないって!」

「出てけ」

「なんで!?」

「風呂入る。どうせ、お前、覗くだろ」

「どんだけ、俺信用ないの!?」

「自分の胸に手を当てて、考えてみろ」

「その隙にドア完全に閉めるんだろ!」

「ちっ」
 

バレたか……。

ちくしょー。


「図星かよ!」

「黙れ、前科持ち」

「う……。だけど、見てないよ!!俺が赤いスプレーかけられそうになっただけだったじゃん!」

「黙れ。変質者」
 

以前、覗きに来た時にあと半瞬速ければ、少しでも赤い粉がかかったのに。

そのことが悔やまれる。

いっそのこと塩コショウでも投げつけてやろうか。

その時は、俺だけガスマスクつけとかないと。


「あれが、俺が悪かったけど、今回は覗かないから!」

「今回“は”?」

「あ、やべ」
 

本音というか、下心丸出しなのは相変わらずだな。

「…………」

「無言で、足グリグリするのやめて!地味に痛いから!!」
 

ため息をつきながら、さっきやったみたいにツボにクるように踵でご丁寧に踏んでいると、薔薇の香りが鼻をくすぐった。


「ほう……。ヨリを戻したのか」

「…………ヘロー。お姫さん」

「にゃ……」
 

ドアの隙間から覗いたのは、楽しそうな笑顔の、城の主だった。
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