The cruel game of heart

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“チェシャ猫”とは、会ったことがなかった。

それは、私が引きこもっていたからだろう。

なぜなら、その空間だけで十分、“幸せ”だったから。

その“幸せ”を、自分の手で壊して、また、永い間、様々な世界を転々として、再びこの世界に戻ってきた。

軸が違えど、私にとって“は”再会することとなった人たち。

余所者と楽しそうな、幸せそうな姿を見られただけで、こっちまで嬉しくなった。

自分が知っている人たちとは別人だとは分かっている。



だけど、“約束”だった。



ねぇ、ヒカリ。

逢いたいなぁ。

例え、それが別人となった、時計の姿であったとしても。

消え去ってしまった世界でも、ヒカリがいたという証がほしいんだ。

私にとって、“あの世界”が大切な時間。

だから、勝手に“ルール”をつくって、自分を戒めてみた。



【一つの世界に留まりすぎてはいけない】

【大切な存在をつくってはならない】

【全てを受容しなければならない】
 
などなど。



本来、異物が縛られる“ルール”とは異なるこれら。

ヒカリが聞いたら、どんな顔をするだろうか。

逢いたいなぁ。



話がそれたね。

このルールはね、ヒカリがと私が愛した“あの世界”に起きたようなことが、もう無いようにするための“戒め”なんだ。

異物として存在するために、感情はいらないのに、感情は消え去ってはくれないから、遠ざけないといけないって思った。

普遍的に、上辺だけで接すれば、互いに特別にはならないと思ったから。

これは、あの馬鹿の受け売りだけど。



なのに、うまくいかなかった。

今まで、あちこちの世界でうまくいってたのは事実なんだ。

けど、この世界じゃうまくいかなかった。

心のどこかで、“あの世界”と重ねているからなのかな。

お姫さんも、時計屋も重ねてないはずなんだけど、難しいね。

でも、騎士は別人だと思えるくらいに、あっちから嫌ってくれてるから、重ねるなんて以ての外なんだよ。
 


あー、でも、そうしたら矛盾が生じるね。

“あの世界”では会うことのなかったチェシャ猫に好かれたんだ。

気まぐれで、ある一つのものに執着することはないはずの存在が、だよ。

おっかしいよね。

余所者が二人もいるせいで、おかしくなったのかは分からないけどさー。

少しだけ、ね。

“あいつ”に似てたんだ。

最期の目が、特に。

まっすぐで、私を見てくれてるって目が。

胸が締め付けられてるような感覚になった。

でも、重ねてた。

“あいつ”と、この世界のチェシャ猫とを。

だから、散々、距離をとってみた。

なのに、厄介事に巻き込まれるから、目が離せなくなって、また、距離を縮めちゃったわー。

どーしよーっか、ヒカリ。
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